ATPは、細胞内に高濃度に存在し、エネルギー通貨として働く。加えて、細胞外では低濃度にてシグナル分子として作用する。脳では、ATPはアストロサイトや神経細胞から放出され、脳血流の制御や神経活動の抑制などのシグナル伝達を担う。また、偏頭痛などの病態では、一過性の神経活動が大脳皮質を伝播する際に、細胞外ATP濃度が上昇することが知られている。これらのATPシグナルの時空間動態やその機能を解明するため、これまで様々なATP測定法が開発されてきた。その1つであり、時空間分解能に優れる蛍光イメージング法では、多くのプローブが開発され、細胞内ATP動態の可視化が実現されてきた。一方、細胞外ATPシグナルは100 nM ~ µM程度の濃度域で作用する。このため、数mM程度である細胞内ATPの可視化に比べ、より高感度のプローブが必要であり、細胞外ATPの可視化は困難だった。そこで本研究では、より感度の高いATPプローブを開発することで、生体内における細胞外ATPシグナルを可視化し、その機能を解明することを目的とした。高いATP感受性の実現のため、ATP認識能の高いFO/F1 ATPaseのεサブユニットを用いた。また、生体内での安定した蛍光イメージングのため、低分子量赤色蛍光色素Cy3を用いた。そして、蛍光色素Cy3とεサブユニットとの結合部位を網羅的に探索し、高感度 (Kd ≈ 100 nM) かつ高変化率 (100%) のATPプローブATP Optical Sensor (ATPOS) を作製した。さらにこのATPOSを、神経細胞膜上へ結合するガングリオシド結合タンパク質を用い、神経細胞膜に安定的に固定する方法を確立した。続いて、ATPOSを細胞外に固定した大脳皮質へATPを局所投与したところ、ATPOSの蛍光強度は増加した。このATPOSシグナルは、ATP分解酵素Apyraseの存在下では減弱したため、ATPOSシグナルは細胞外ATP動態を示す。さらに、この細胞外ATPイメージングを、神経活動が伝播する偏頭痛などの病態モデルへ応用し、ウェーブ状に広がるATP濃度上昇を捉えた。このATPウェーブは、脳血管の収縮・拡張を伴っており、ATPは病態における血流制御でも重要な働きを示すことが示唆される。以上より、我々は高感度ATPプローブを用いて、細胞外ATP動態の可視化に成功した。

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