【目的】
抗がん剤投与によって引き起こされる疲労感は、安静や睡眠では軽減されにくいことが特徴であり、がん患者のQOL低下や治療中止の要因となる。従って、この疲労感の改善が治療継続と患者のQOL低下抑制に有効となりえる。人参養栄湯(Ninjinyoeito:NYT)はこの疲労感に対して改善効果を示す臨床報告があり、その有効性は高いと考えられるが、その科学的根拠は未だ少ない。特に動物モデルによる検討は少なく、その作用機序は未解明である。NYTは食欲不振にも処方されるため、本研究では摂食に関わる消化管ホルモンに着目し、抗がん剤であるシスプラチンを投与したマウスの行動変容と消化管ホルモン量に対するNYTの効果を検討した。
【方法】
雌性ICRマウスにシスプラチン(10 mg/kg)を単回腹腔内投与した後、NYT(300、1000 mg/kg/day)を1日1回6日間経口投与した。シスプラチン投与後5日目に巣作り行動解析による気力の評価と、6日目にオープンフィールドテストによる自発運動量を測定した。また、マウスの尾静脈から採血し、血清中の消化管ホルモン量をELISA法にて測定した。
【結果】
シスプラチン投与による体重低下と摂餌量低下に対して、NYT(300、1000 mg/kg)は有意な改善を示した。さらに、シスプラチン投与による自発運動量低下と探索行動低下に対してもNYTは有意な改善を示した。一方、巣作り行動低下に関してはNYTによる改善は示されなかった。食欲抑制ホルモンであるペプチドYYは、シスプラチン投与により増加し、NYT(300、1000 mg/kg)は有意に改善した。
【考察】
NYTはシスプラチン投与によるマウスの気力低下には改善作用は示さなかったが、体重低下と自発運動量低下の改善作用を示した。このことから、NYTは一部の疲労様行動に有効であることが明らかとなった。また、NYTはペプチドYYの増加を抑制したことから、摂食行動の脳神経回路の調整がNYTによる自発運動量低下改善に寄与することが考えられた。ペプチドYYは腸管から分泌されることから、NYTは腸管の機能を改善することで、抗がん剤投与による疲労感を改善することが示唆された。