歯周病はP. gingivalis由来リポ多糖(P. g LPS)がマクロファージなどの炎症性細胞の浸潤及び炎症反応を引き起し、それにより破骨細胞の分化シグナルが惹起され骨破壊が進行しその病態が悪化していくことが明らかになっている。しかしながら、歯周組織自体のLPSによる細胞応答、特にLipocalin2(LCN2)を介した鉄動態については不明な点が多い。そこで、本研究では、歯周組織に存在する線維芽細胞であるヒト歯根膜線維芽細胞(HPLF)のP. g LPS処理による細胞応答について、鉄動態に着目し解析を行った。
 P. g LPSを10 µg/mlで処理後2時間のHPLFにおける炎症性サイトカインIL-6の発現を調べたところ、P. g LPS処理で有意に発現が上昇していた。感染症などによる炎症の際、細胞に対して保護的な役割をすることが報告されているLCN2の発現を調べたところ、P. g LPS処理によりその発現は減少していた。LCN2は鉄をその分子内に捕捉することが報告されているが、P. g LPS処理によりHPLFにおける細胞内及び主たる鉄利用細胞内器官であるミトコンドリアでのFe2+の量は共に増加していた。また、細胞内鉄貯蔵タンパク質であるフェリチンの発現量は減少していた。さらに、細胞内Fe2+の増加はフェントン反応によりヒドロキシラジカル(・OH)を発生し、フェロトーシスを誘導することが報告されているが、P. g LPS処理後の・OH量を調べたところ、その量はコントロールに比べて有意に増加しており、フェロトーシスのマーカーであるLiperfluoのシグナルも増強されていた。一方、P. g LPS処理により、ミトコンドリアの構成タンパク質であるプロヒビチン2の発現とミトコンドリア膜電位は減少していた。
 以上より、HPLFにP. g LPSが作用すると炎症が惹起され、LCN2、フェリチンの発現減少に伴って細胞内Fe2+が増加し、ミトコンドリア機能が低下することが示唆され、鉄動態制御によるミトコンドリア機能改善が、歯周病治療における新しいターゲットの1つになる可能性があると考えられた。