【背景】プロテインキナーゼC(PKC) β は糖尿病性血管障害の原因因子であり、高血糖時の血管内皮および平滑筋細胞の酸化ストレスを伴う炎症反応に深く関連する。一方、高血圧による炎症性血管障害においてもPKCβの活性が関連している可能性が考えられるが、その関連についてはよく分かっていない。
【目的】本研究では、血管平滑筋細胞を用いて高血圧関連因子であるアンジオテンシンⅡ(Ang Ⅱ)誘発の炎症反応におけるPKCβの役割を検討することを目的とした。
【方法・結果】野生型ウイスターラットから腸間膜動脈を摘出し、血管平滑筋細胞を分離・培養した。Ang Ⅱ処置(1-1000 nM, 15 min)は、PKCβSer 660およびThr 641のリン酸化を濃度依存的に亢進した。同様に、Ang Ⅱ の短時間処置(30 min)は、活性酸素種の産生を増強した。一方、 Ang Ⅱの長時間処置(24 hr)も活性酸素種産生を増強し、この時NADPHオキシダーゼ活性の亢進も見られた。しかし、Ang Ⅱ 処置はミトコンドリア活性酸素種産生には影響しなかった。次に、PKCβの阻害薬であるLY333531の前処置(100 nM, 1 hr)を行い、Ang Ⅱ短時間および長時間処置への影響を検討した。LY333531の単独処置では活性酸素種産生に影響を及ぼさなかったが、LY333531はAng Ⅱ処置による活性酸素種産生増強を有意に抑制した。同様に、PKCβ₂選択的阻害薬であるCGP533531(100 nM, 1 hr)の単独処置は活性酸素種産生に影響を及ぼさなかったが、Ang Ⅱ処置による活性酸素種産生の増強を有意に減弱した。
次に、GONAD法を用いてPKCβノックアウトラットを作製し、腸間膜動脈の血管平滑筋細胞を分離・培養した。ノックアウトラットの血管平滑筋細胞においてPKCβ mRNA発現は完全消失していた。別のアイソフォームであるPKCα, δ, εの発現レベルは野生型ラットと比較し変化は認められなかった。PKCβ欠損細胞において Ang Ⅱ短時間および長時間処置による活性酸素種産生の増加は完全に消失した。
【結論】以上の結果から、血管平滑筋細胞におけるAng ⅡによるNADPHオキシダーゼ活性を介した活性酸素種産生にPKCβが必要不可欠であることが示された。今後は、PKCβによるNADPHオキシダーゼ活性化メカニズムの詳細を検討し、高血圧病態における炎症反応とPKCβとの関連を明らかにしたい。