【背景・目的】一般的に、食べた物に対しては、経口免疫寛容と呼ばれる免疫調整システムがはたらき、食物アレルギーは誘導されない。しかしながら、食物アレルギー患者では、経口免疫寛容が獲得できなかったか、もしくは、破たんすることによって、食べた物に対してアレルギーが生じている。近年、経口的に摂取した食物に対しては免疫寛容が、皮膚を介した暴露にはアレルギーが引き起こされるとする仮説が提唱されている。本研究では、皮膚を介した食物抗原の暴露による経口免疫寛容の破たんを試みた。
【方法】食物アレルギーにおける経口免疫寛容と経皮的な感作との関連を明らかにするため、3つの食物アレルギーモデルを作製し、経口免疫寛容への影響を検討した。IP モデル: マウスに、卵白アルブミン (ovalbumin, OVA) を腹腔内注射 (intraperitoneal injection, IP) し、OVA を経口投与して食物アレルギーを誘導した。EC モデル: 剃毛したマウスの頸背部に、OVA を含有させたろ紙を貼付し感作 (epicutaneous sensitization, EC) させ、食物アレルギーを誘導した。ID モデル: マウスの頸背部に OVA を皮内注射 (intradermal injection, ID) し、食物アレルギーを誘導した。各モデルにおいて、感作前に少量の OVA を経口投与することで経口免疫寛容を誘導した。食物アレルギーは、アナフィラキシーショックによる体温低下と下痢、血中の OVA 特異的 IgE 値によって評価した。
【結果】IP モデルでは、血中の OVA 特異的 IgE 値が上昇し、OVA の経口投与によって体温低下や下痢が確認された。IP モデルにおいて経口免疫寛容を誘導すると、IgE 値の上昇が完全に抑制され、食物アレルギーは誘導されなかった。EC モデルや ID モデルでも、顕著に IgE 値が上昇し、食物アレルギーが惹起された。経口免疫寛容を誘導した EC モデルでは、IgE 値は上昇したが、食物アレルギー症状はほとんど観察されなかった。経口免疫寛容を誘導した ID モデルでは、 IgE 値が上昇し、アナフィラキシーショックが惹起された。
【考察】皮膚を介して誘導する食物アレルギーは、経口免疫寛容を破たんさせる可能性が示された。