2型糖尿病に合併した骨格筋萎縮症では、これまでに好気的代謝能の高いⅡa型筋線維数の減少が報告されている。筋線維構成比の正常化は骨格筋萎縮症の治療目標と考えられるが、骨格筋細胞分化における筋線維型決定機序は不明の部分が多い。今回我々はヒトiPS細胞由来の骨格筋細胞分化誘導系を用いて、転写共役因子p300が筋線維特異的な分化調節に関与する知見を得たので報告する。
 筋特異的転写因子(MyoD/Tet-ON)を発現させたヒトiPS細胞の骨格筋細胞分化誘導により、筋管構造を形成するまでの分化過程について解析した。転写共役因子p300タンパクの発現レベルは、未分化iPS細胞から分化誘導7日目の筋管細胞に至るまで有意な変化は認められなかった。しかし、特異的siRNAを用いたp300ノックダウン細胞では、対照細胞との比較において細胞死は増加しないが、筋管細胞への分化効率は30%の減少が認められた。筋線維型特異的マーカーの検索では、Ⅱa型筋線維特異的なMyh2タンパク発現が有意に減少することを見出した。更に、フラックスアナライザーを用いた解析ではp300ノックダウン細胞における基礎酸素消費能が対照細胞に比し有意に低下しており、好気的代謝能の高いⅡa型筋線維に相当する骨格筋細胞数減少に合致した結果であった。以上より、転写共役因子p300がヒト骨格筋細胞分化における筋線維型決定機序に関与することが示唆され、現在更に検討を進めている。