【背景】 合成副腎皮質ホルモン製剤の一つであるプレドニゾロン(PSL)はアトピー性皮膚炎や慢性腎炎などの治療に利用されている。一方で、PSLを含む合成副腎皮質ホルモン製剤は様々な副作用を持ち、犬では多尿が問題視されている。しかしながら、合成副腎皮質ホルモン製剤投与によって多尿が引き起こされるメカニズムについては不明のままである。そこで今回、PSL投与ラットの利尿メカニズムについて検討した。
【方法】 9週齢の雄性SDラットにPSL(1.0 mg/kg、s.c.、PSL群)、あるいは溶媒(25% DMSO/75% Corn Oil、s.c.、対照群)を投与した。投与後6時間の採尿を行い、6時間後に採血と腎臓の採材を行った。その後、尿と血液について浸透圧および溶質(Na+、K+、Cl-、無機リンなど)濃度を測定した。尿量、尿浸透圧、血漿浸透圧から自由水クリアランスを算出した。加えて、腎臓から核酸を抽出し、リアルタイムPCR法によってNa+依存性の輸送体(NaPi)や水チャネル(AQP1-AQP4)の遺伝子発現量を調べた。
【結果】 対照群と比較して、PSL群で血中の無機リンは減少していた。尿量は増加しており、尿浸透圧は減少していた。尿中のNa+、K+、Cl-、無機リンの総排泄量は増加していた。PSL群の自由水クリアランスは減少していた。腎での遺伝子発現については、調べた遺伝子の中で減少していたものはNaPi-Ⅱa、NaPi-ⅡcおよびAQP2であった。
【考察】 以上の結果から、ラットにおいてもPSL投与によって多尿が引き起こされること、そしてそのメカニズムとして腎臓のリン酸輸送体の発現量が減少したために、溶質(Na+、リン酸)の再吸収が抑制されることにより浸透圧利尿が引き起こされたと考えられた。一方、自由水クリアランスの値が減少していたことから、AQPの発現量の変化が利尿に寄与する程度は小さいものと考えられた。本知見は、PSL使用における副作用の新規メカニズムを提唱するもので、今後のPSLによる多尿に対する有効な対処療法の発見につながることが期待される。