【目的】動脈硬化などの炎症性血管病変では血管の弾性率の増加(硬化)がみられ、血管硬化は心血管イベントのリスク因子となる。我々は、細胞外環境だけでなく細胞そのものの硬さにも注目し、これまでに血管内皮細胞が炎症時に硬化し、単球の接着が亢進することを明らかにしてきた。また、炎症刺激による細胞間ギャップ結合の機能低下が血管内皮細胞硬化や血管炎症を促進することを示してきた。血管内皮細胞における細胞硬化とギャップ結合の機能低下は協調して血管炎症を促進すると推測されるが、その分子機構はあきらかでない。本研究では、炎症時における血管内皮細胞の硬化が血管炎症を増悪化するメカニズム解明の一環として、メカノトランスダクションを担う転写共役因子Yes-associated protein (YAP)が細胞硬化や細胞間ギャップ結合に及ぼす影響を解析した。
【方法】ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVECs)をリポポリサッカライド(LPS)で刺激し、YAPタンパク質の発現量と細胞内局在をウェスタンブロット法と蛍光免疫染色法で解析した。HUVECsをLPSとYAP阻害剤のVerteporfinまたは活性化剤のXMU-MP-1で処理し、細胞の硬さをAtomic force microscopy(AFM)を用いて測定した。次に、細胞硬化に関わる細胞骨格の編成、細胞間ギャップ結合機能をファロイジン染色と色素移行アッセイで評価した。
【結果と結論】血管内皮細胞にLPS刺激を加えるとYAPは細胞核へ移行することを確認した。YAPの阻害は炎症時の細胞硬化、細胞骨格の編成促進、細胞間ギャップ結合機能低下を抑制することが明らかとなった。一方で、YAPを活性するだけでも細胞硬化、細胞骨格編成、ギャップ結合機能低下が誘導された。血管内皮細胞においてYAPが血管内皮細胞の硬さとギャップ結合を介して血管炎症を制御する重要な分子である可能性が示唆された。