アルツハイマー病 (AD) は、近年高齢化により患者数の増加が確実であるにもかかわらず、根本的かつ有効な治療薬は開発されていない。現在治療薬としてセクレターゼ阻害剤や凝集抑制剤などが研究されているが、未だ効果や副作用の問題で承認には至っていない。我々は今までに、低分子合成ペプチドがセリンプロテアーゼ活性を有することを見出しており、酵素ペプチドの総称として Catalytic Peptide (Catalytide) と命名した。Catalytide の中で最も活性の強い 9 残基合成ペプチド JAL-TA9 (YKGSGFRMI) は、Aβ42 を分解することから AD の根本的治療薬候補になり得ることが示唆された。そこで、APP ノックイン AD モデルマウスの脳室内に JAL-TA9 を投与した結果、認知機能の改善に加えて脳内 Aβ42 が減少した。さらに、JAL-TA9 は AD 患者ヒト脳切片中の沈着した Aβ42 を分解した。これらのことより、JAL-TA9 は、脳内の Aβ42 を分解除去し、認知機能を改善することができるこれまでの治療薬とは異なった機序による根本的 AD 治療薬となり得ることが期待できた。
AD に対するペプチド創薬の問題点としては、BBB の透過性及び生体内での安定性があげられる。そこで投与方法の検討として、Aβ25-35 脳室内投与により作成した AD モデルマウスを用いて JAL-TA9 の脳室内投与、経鼻投与及び尾静脈投与による効果を比較した。その結果、すべての投与方法にて Aβ25-35 脳室内投与により惹起された認知機能低下が改善されることが明らかになった。そこで、非侵襲的な経鼻投与による JAL-TA9 の脳内移行性を検討した結果、嗅球から JAL-TA9 が経時的に前脳へと移行していき、嗅球に入った 10 % が脳内へと移行することが明らかとなった。
以上のことから、JAL-TA9 は経鼻投与により安全かつ安価な AD の根本的治療薬になり得ると考え、現在臨床試験に向けた研究を行っている。