【目的】大麻は、長期間の使用によって、認知機能障害や精神病様症状を引き起こす。この大麻の主要活性成分Δ9-テトラヒドロカンナビノールの標的分子であるカンナビノイド受容体に作用する内因性物質として、2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)とアナンナミド(AEA)が存在する。一方、覚せい剤メタンフェタミン(METH)の反復投与は、マウスやラットにおいて行動感作による再燃現象や感覚情報処理機能の障害を引き起こし、覚せい剤精神病のモデルとして知られている。これらを背景に本研究では、METH長期反復投与による退薬後に発現する行動異常とエンドカンナビノイドの脳内変化について検討した。
【方法】実験動物は、雄性カンナビノイドCB1受容体遺伝子欠損(CB1KO)マウス、または遺伝的対照群として雄性ICR系(野生型)マウスを用いた。これらのマウスを用いて、METH(1.8mg/kg)あるいは生理食塩水(対照群)を1日おきに30日間かけて皮下投与した。なお、このMETH投与スケジュールにおいて、野生型マウスでは自発運動量を指標とした行動感作が生じることを確認している。METH反復投与終了後から退薬し、退薬30日後に聴性外来刺激応答を指標としたプレパルス抑制(PPI)試験あるいは認知機能を評価する新奇物体認識試験を実施した。また、METH投与期間中およびその退薬後に、LC-MS/MS法を用いてエンドカンナビノイドである2-AGおよびAEAの脳内含有量を測定した。
【結果】METH反復投与によって、野生型マウスでは退薬30日後に感覚情報処理機能障害(PPI障害)と認知機能障害(新奇物体に対する認識障害)が認められた。しかしながら、これらの行動異常はCB1KOマウスおよびMETHとCB1受容体拮抗薬AM251を併用投与した野生型マウスでは認められなかった。一方、METH反復投与中およびその退薬後における野生型マウスの脳内カンナビノイド含有量は、いずれも前頭前皮質(PFC)において2-AGが有意に増加した。
【考察・結論】以上の結果から、METH反復投与による行動感作の形成およびMETH反復投与後の退薬時に認められる感覚情報処理機能障害や認知機能障害は、CB1受容体を介した脳内カンナビノイドシステムが持続的に、かつ促進的に関与していること(特にPFCの2-AG増加)が示唆された。