動脈硬化などが原因で引き起こされる末梢動脈の閉塞は下流組織の虚血障害や壊疽を引き起こす。これを回避するために、生体は閉塞した動脈を迂回する側副血行路の形成や血管新生・成熟を促す仕組みを持つ。当研究室は、細胞膜上の受容体作動性カチオンチャネルTransient receptor potential canonical(TRPC)6の活性が虚血後の血管成熟に必要な血管平滑筋細胞の筋分化を負に制御すること、および末梢循環障害治療薬シロスタゾールがTRPC6の69番目のスレオニン残基のリン酸化によりチャネル活性を抑制することを報告してきた。本研究では、実際に個体を用いて末梢循環障害におけるTRPC6チャネルの関与を明らかにすることを目的とした。
 左大腿動脈を結紮することにより下肢虚血モデルマウスを作製し、虚血処置後の血流回復率は虚血肢の左後肢と非虚血肢の右後肢の血流量の比にて算出した。血管成熟については、指標となるα-SMAの免疫染色や血管径の測定により検討した。シロスタゾールの作用標的を検証するために、TRPC6欠損マウスに血管平滑筋特異的TRPC6リン酸化部位変異体(T69A)を発現させたTRPC6 (T69A) マウスを作出し、同様の実験を行った。
その結果、TRPC6欠損マウスにおいて、虚血処置後の血流回復が促進した。血管平滑筋特異的TRPC6(WT)マウスでは、シロスタゾール投与により処置後の血流回復を促進させたのに対し、血管平滑筋特異的TRPC6 (T69A)マウスでは、シロスタゾール投与による処置後の血流回復は見られなかった。
以上の結果より、血管平滑筋細胞のTRPC6チャネル活性阻害が、下肢虚血後の末梢循環障害を改善させることを明らかにした。