従来,急性腎障害(AKI) は“治る病気”と考えられていたが,近年の疫学調査やメタ解析により,AKI が 慢性腎臓病(CKD) のリスク因子となることが明らかになりつつある.CKD は末期腎不全や透析導入の予備群となるだけでなく,心血管リスクや死亡リスクを増大させることから,AKI to CKD transition を制御し得る治療法の確立が求められる. 過去に, 本研究室が見出した効率的に応答を促す特定条件の微弱パルス電流(MES: mild electrical stimulation)と42℃の温熱(HS: heat shock)を併用したMES+HSはAdriamycin(ADR)誘導性 ネフローゼ症候群(NS)モデルマウスの腎病態を改善することが明らかになった. そこで,本研究では,両側腎虚血再灌流障害(Bi-IRI)モデルマウスを用いて,MES+HS が AKI to CKD transition に与える影響を検討した.AKI to CKD transition の本態は,AKI 後の修復が正常に行われず,組織に炎症等の障害が遷延する maladaptive repair にあると考えられる.Bi-IRI モデルマウスの腎機能は,虚血処置により急激に低下した後,経時的に回復したが,腎機能回復後も尿細管障害に加え,炎症や線維化等の障害が認められた.本モデルに対し,MES+HS を虚血処置の翌日から 1 回 10 分,週に 2 回の頻度で処置したところ,MES+HS が腎機能の回復を支持することを明らかにした.さらに,MES+HS は尿細管障害や炎症を抑制するとともに,AKI to CKD transition の指標である 虚血後 14 日目の線維化病態も有意に抑制した.また,最近,AKI 後に障害を受けた近位尿細管細胞か ら亜集団(FR-PTC: failed-repair proximal tubular cell)が出現し,障害の慢性化に関わるという報告がなされた.MES+HS は,この FR-PTC のマーカー分子である Vcam1 陽性の尿細管細胞を減少させることを見出し,尿細管の正常な修復を促すことを示唆した.以上の結果より,MES+HS が,CKD への移行に関与する炎症や線維化等の病態を改善するとともに,障害の慢性化に関わる近位尿細管細胞の亜集団の出現を制御することで,AKI to CKD transition を抑制し得ることを示した.