【背景・目的】Bardoxolone methyl (BM) はKeap1のシステイン残基に不可逆的に共有結合することで,抗酸化因子Nrf2の活性化を誘導する低分子化合物である.これまでにBMは慢性腎臓病(CKD)患者を対象とした臨床試験において,糸球体ろ過量(GFR)を増加させたことから,“世界初の腎機能改善薬”として注目を集めている.しかし,CKDの予後増悪因子であるタンパク尿が増加することや,BM等の共有結合型のKeap1阻害薬には多くのオフターゲットが存在することから,長期的な投与による有効性・安全性が懸念されている.そこで,本研究では選択性・安全性の高いNrf2活性化薬の開発と治療応用を目的に,Keap1-Nrf2タンパク質間相互作用(PPI)阻害による可逆的Keap1阻害薬の開発及びCKDモデルマウス(Alport症候群:Col4a5-G5X)への有効性評価試験を行った.
【方法・結果】蛍光偏光法にて取得した新規Keap1阻害薬UBE-1099はマウス用BM類縁体であるCDDO-Im以上のNrf2活性化効果を示した.CKDモデルマウスへの有効性評価試験を行った結果(6-22週齢:30 mg/kg/day p.o.),臨床でのBMと同様に,UBE-1099はCKDモデルマウスのタンパク尿を一過性に増加させ,血漿クレアチニンを有意に減少させるとともにGFRの増加傾向を示した.また,種々の組織学的解析を行った結果,UBE-1099はCKDモデルマウスの糸球体障害,腎組織の炎症・線維化病態を一様に改善させ,生存期間を有意に延長させた.腎病態改善機序の探索を目的に腎糸球体を用いたRNA-seq解析を行った結果, Nrf2関連経路に加えて,細胞周期や細胞骨格関連遺伝子の増加を認めた. BMによるGFR増加効果には糸球体構造変化の関与が示唆されていることを踏まえると,UBE-1099による特徴的な腎病態改善機序にも同様の経路の関与が示唆される.
【考察】本研究はUBE-1099がCKDモデルマウスの腎病態の進行を改善し,生存期間を延長させることを初めて明らかにした.さらに演者らは,UBE-1099がマウス虚血再灌流モデルの腎障害を抑制することも見出しており, Keap1-Nrf2 PPI阻害薬が多岐に渡る腎疾患に対して有用であることを示唆する重要な基礎的知見である.