[背景・目的]
抗がん剤であるドキソルビシン(DOX)は副作用としてミトコンドリア機能を障害して心臓や腎臓などに臓器障害をもたらす。NAD+依存性蛋白脱アセチル化酵素であるSIRT1の活性化は心不全や急性腎障害に対して保護的に作用することが報告されている。最近、我々はマウスにおいて、SIRT1活性化薬として知られるレスベラトロール(RSV)やSIRT1の活性に必要なNAD+の前駆体であるニコチンアミド・モノヌクレオチド (NMN) の投与がDOXによる心臓障害を軽減することを報告した。本研究の目的は、これらSIRT1活性化薬の処置がDOXによる腎障害を軽減するかを明らかにすることである。
[方法・結果]
12週齢のC57BL6雄性マウスにvehicleを投与した対照群、DOX (5 mg/kg、IP)を7日毎に4回投与したDOX群、DOX投与開始7日前からRSV含有餌 (0.4g/kg) を6週間与えたRSV+DOX群、NMN (500 mg/kg、IP) を各DOX投与の30分前と2日後に投与したNMN+DOX群の4群を設けた。マウスの体重を7日毎に測定した。最終DOX投与から1週間後に採血および腎組織の採取を行った。マウスの体重は、対照群と比較してDOX群で経時的に低下したが、RSV+DOXとNMN+DOX群では一部維持された。血清クレアチニン値はDOXにより上昇はせず、RSVとNMNの影響もなかった。腎組織中のマロンジアルデヒドの測定により組織酸化ストレスを評価したが、4群間で有意な差はなかった。ミトコンドリア障害を評価する目的で、ミトコンドリア含有量の多い腎近位尿細管のミトコンドリアの形態を超解像度顕微鏡により観察した。対照群では紐状や網目状の形態をとるミトコンドリアが多く観察された。対照群と比較してDOX群では断片化し球状となったミトコンドリアが増えていた。RSV+DOXとNMN+DOX群ではミトコンドリアの断片化は抑制され紐状や網目状の形態をとるミトコンドリアが多く見られた。
[結論]
RSVとNMNの処置は腎組織におけるDOX誘導性のミトコンドリア形態異常を抑制すると考えられた。