【背景・目的】
Adenosine deaminase 2欠損症(DADA2)は、遺伝性自己炎症性疾患であり、国内外の患者数が約数百人程度の希少疾患である。主な症状は血管炎に伴う多様な臓器障害であり、特徴的な症状としては若年齢で発症する脳卒中やこれに伴う運動機能障害がある。エタネルセプトなどの抗TNFα抗体の有効性が報告されているものの、確立された治療法はなく、有効な治療法の開発が急務である。DADA2は責任遺伝子cecr1の変異により、ADA2分子の機能が消失し、血管炎を惹起すると考えられているが、メカニズムは不明である。DADA2の研究が進まない理由の1つに薬効評価可能な疾患モデル動物がないことが挙げられる。これはマウスにcecr1遺伝子が保存されておらず、DADA2モデルマウスの作出が困難であることが原因である。そこで本研究ではcecr1が保存されているゼブラフィッシュに着目し、薬効評価可能なDADA2モデルの作出を試みた。
【方法】
アンチセンスモルフォリノオリゴ(MO)を受精卵に投与し、cecr1bをノックダウン(KD)した。リアルタイムqPCRによるcecr1b-KD効果の確認、脳出血の発生率、運動機能障害の有無でモデルの評価をした。
【結果】
Cecr1bのKDにより、ゼブラフィッシュ稚魚のcecr1b mRNA量はcontrol MO処置群と比較して約9.2%まで有意に低下し、KD効率が十分であることが確認できた。Cecr1b-KDゼブラフィッシュ稚魚では脳出血の発生率が50.9%まで上昇した。さらに自発運動量が有意に低下した。これらの表現型はDADA2患者の症状と類似していた。DADA2患者では、血管炎が生じることや抗TNFα抗体、抗IL-6抗体、ステロイドが一定の有効性を示した報告があり、DADA2病態に炎症性サイトカインの関与が考えられる。そこで、抗炎症作用を示す合成ステロイドであるdexamethasone (DEX)がcecr1b-KDゼブラフィッシュ稚魚に与える作用を検討した。その結果、脳出血や運動機能障害を有意に改善した。さらに炎症性サイトカインについて調べると、IL-1βとIL-6発現増加を抑制した。
Cecr1b-KDゼブラフィッシュ稚魚がDADA2のモデル動物として薬効評価が可能であり、またDEXがDADA2の病態を改善する可能性を見出した。