【目的】
転移がんをもつ患者では初期がん患者に比べてhistone lysine demethylase 4(KDM4)の発現が亢進していることが知られている。KDM4活性を抑制するNCG00244536(NCG)の投与は子宮頸癌、乳癌、前立腺癌などの複数の癌に効果があり、副作用も少ないことから、将来抗がん剤としての利用価値があると考えられる。本実験では、NCGのメラノーマ細胞に対する増殖抑制作用の検討を行った。
【方法】
細胞はMEF(マウス胎児線維芽細胞)およびB16(マウスメラノーマ細胞)を用いた。NCGを各細胞に二日間投与し、増殖細胞数をWST8およびCell Titer-Gloを用い検討し、死細胞数をCyQUANT LDHを用い、細胞老化度をSA-β galを用いて検討した。また、NCGの細胞周期に与える影響を検討するため、細胞周期に関わるCDKN1ACDK1CDK2CCND1についてmRNAの発現量の変化を、RT-PCRを用いて検討した。
【結果および考察】
B16細胞において、NCG投与では細胞増殖数が抑えられた。死細胞数はNCG無投与群と有意差は見られなかったものの、NCG投与群の多くの細胞でβ-ガラクトシダーゼの蓄積が観察された。β-ガラクトシダーゼの細胞内蓄積は老化細胞の特徴であるが、これはMEF細胞では認められ無かった。これらのことから、NCG投与によるB16細胞の増殖細胞数の抑制は細胞死によるものではなく、細胞周期の遅れである可能性が高いと考えられる。一方、MEF細胞においては、NCG投与における細胞変化がみられなかったことから、NCGの正常細胞への影響は少ないと考えられる。また、B16細胞において、NCG投与群はNCG無投与群と比較して、CDKN1Aの発現量が抑えられ、CDK1CDK2CCND1の発現量が増加していた。これらのことから、NCGはCDKN1Aの発現を増加させ、CDK1CDK2およびCCND1の発現を抑えることで、細胞周期を阻害している可能性が示唆された。
【結論】
NCGにはB16メラノーマ細胞の増殖を抑制する作用があることが示された。これは、細胞周期に関わるタンパク質の発現に影響を与えて細胞周期を遅らせることによると考えられる。さらに、NCGは正常細胞への影響が少なく、抗がん剤としての有効性が示唆された。今後、臨床での実用化に向けて、NCGのさらなる有用性の解明が期待される。
*Correspondence: hasan@iwate-med.ac.jp; or, etaira@iwate-med.ac.jp