【背景】抗がん薬誘発末梢神経障害 (CIPN) はがん化学療法における重篤な副作用の一つであり、患者の生活の質を著しく低下させる。しかし、有効な治療法や治療薬は存在せず、抗がん剤治療を継続する上で重大な問題となっている。そこで本研究では、現在、神経障害性疼痛治療薬として使用されている新規電位依存性Ca2+チャネルリガンドであるミロガバリンに着目し、Vincristine (VCT) 誘発末梢神経障害性疼痛 (VIPN) モデルマウスの機械的アロディニアに対する鎮痛作用を行動薬理学的に解析した。
【方法】実験には雄性C57BL/6NCrマウスを用いた。VIPNモデルは健常マウスにVCT (0.1 mg/kg) を単回腹腔内投与することで作製した。VCT誘発機械的アロディニアの指標である疼痛関連スコアはvon Frey filament testにより評価した。疼痛関連スコアがピークに達するVCT投与14日目において、ミロガバリンの鎮痛作用解析を行った。マウスの運動機能はwheel activity testおよびrotarod testを用いて評価した。
【結果】VIPNモデルマウスにミロガバリン (1,3, 10 mg/kg) を経口投与したところ、用量依存的な疼痛関連スコアの抑制が見られた。次に、ミロガバリンの作用部位を検討するために、脊髄腔内投与 (1, 3 µg/site) および足蹠内投与 (10 µg/site) により、VIPNモデルマウスの疼痛関連スコアを評価した。その結果、脊髄腔内投与においてのみ疼痛関連スコアは抑制された。さらに、ミロガバリンの脊髄腔内投与による運動機能への影響について健常マウスを用いて解析した。その結果、ミロガバリン (3 µg/site) 投与による運動機能への影響は見られなかった。
【考察】これらの結果から、ミロガバリンは脊髄後角に作用することによりVIPNモデルマウスの機械的アロディニアを抑制することが示された。よって、ミロガバリンはVIPNに対して有効な治療薬になりうる可能性がある。