【背景と目的】Midnolin(MIDN)は、マウス胎仔の中脳で発現し、核小体に局在する遺伝子産物として発見されが、未だ生理機能や病態的な役割については解っていない。一方、当研究室では、山形と英国のコホート研究においてMIDNのコピー数の減少が孤発性パーキンソン病(PD)の発症リスクを高めることを見出した。そこで、MIDNの発現量の低下がPDの発症に関与していると想定し、その発現低下を改善させる化合物の探索を試みた。
【方法】MIDNプロモーター(PR)領域(-150 bp〜+125 bp)とホタルルシフェラーゼ遺伝子を組込んだレポーターベクターをヒト神経芽細胞腫 SH-SY5Y 細胞にトランスフェクションした。無血清培地で化合物処置し、24時間培養後にONE-Glo™ Luciferase Assay System(Promega)を用いて発光を測定しPR活性を評価した。化合物ライブラリー(Med Chem Express; HY-L022)は分注ロボットを用いて処置した。2次スクリーニングはルシフェリンによる発光を測定し、濃度依存性を評価した。mRNAの定量解析は可溶化した細胞の全RNAを抽出し、その逆転写産物からリアルタイムPCRを行った。
【結果と考察】2340化合物中、265化合物が活性基準を上回り、その中から26化合物を選抜した。2次スクリーニングでは10化合物が活性を認めた。内訳は、ムスカリン・ニコチン受容体、プロスタノイド、消化性潰瘍、抗炎症、感染症に関係する薬剤であった。幾つかのコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)が一部の認知症を伴うPD患者に有効な症例が報告されているため、アセチルコリン(ACh)とChEIの作用を詳しく検討した。AChはMIDNのPR活性を約2.0倍上昇させた(EC50 約0.4 µM)。また、AtropineによりAChのPR活性の上昇作用が阻害された。ChEI(Donepezil, Rivastigmine, Pyridostigmine; 1 µM)は、AChのPR活性を増強させた。MIDNのmRNA発現は、ACh(100 µM, 2 hr)により無処置の2倍程度まで増加した。これらのことから、AChがMIDNのmRNA発現を増加させることが明らかとなり、ChEIがこの作用を修飾する可能性があると考えられる。