カルモジュリン(CaM)依存性タンパク質キナーゼであるeEF2KはCaM kinase IIIとも呼ばれる。eEF2Kの活性化は、N末端側にあるCaM結合ドメインへのCaM結合だけでなく、extracellular signal-regulated kinase (ERK)、AMP-activated protein kinase (AMPK)、mammalian target of rapamycin (mTOR)といったシグナル分子によりCaM非依存的にも制御されている。活性化したeEF2Kは、タンパク質翻訳過程においてペプチド鎖伸長を促進するeEF2を不活性化(リン酸化)することで、タンパク質合成を抑制する。最近、様々な疾患の病態制御におけるeEF2K/eEF2シグナルの役割が研究されており、タンパク質合成に加えて、炎症、細胞死、神経可塑性にも影響を及ぼすことが明らかにされている(亀島、山脇ら、日薬理誌149. 194-199, 2017)。我々の研究室では、自然発症高血圧ラットの腸間膜動脈でeEF2K発現が特異的に亢進することを発見して以来、eEF2K選択的阻害薬A484954を用いて、eEF2K/eEF2が本態性高血圧症や肺高血圧症の病態制御に関わることを明らかにしてきた。また、最近では、A484954が肥満・2型糖尿病モデルラットにおいて、尿糖増加や血糖値低下作用を有することも見出した。さらにA484954が強心作用を有し、心不全に対して保護的に働く可能性も見出している。本シンポジウムでは、eEF2K選択的阻害薬A484954の多面的作用について、高血圧、2型糖尿病、心不全に対する保護効果を中心に紹介したい。