パーキンソン病は、中脳のドパミン神経が変性・脱落することで運動症状を呈する神経変性疾患である。現在に至るまで、パーキンソン病の根本的な治療法は確立されていない。我々のこれまでの分子疫学的な研究によって、Midnolin (MIDN) 遺伝子のコピー数の減少が、パーキンソン病の発症と強く相関することが明らかになった。しかし、MIDNの減少がどのようにパーキンソン病の発症に関与するかは不明である。我々は、MIDNの分子機序を明らかにすることで、パーキンソン病の新たな発症機序や治療法を発見出来ないかと考えた。MIDNの生理的な役割を明らかにするため、Midn遺伝子をノックアウト (KO) したラット褐色細胞腫由来PC12細胞を樹立し、RNA-シーケンス解析を行ったところ、様々な遺伝子の発現が変動することが明らかになった。MIDNは核内にも局在するが、転写活性化ドメインやDNA結合モチーフを持たないため、転写因子としては機能しないと考えられる。我々は、MIDNが何らかの転写調節因子に結合し、その機能を調節することで、遺伝子発現を制御するという仮説をたてた。我々は、Midn KO PC12細胞で発現が変動した遺伝子の上流に共通して転写調節因子 early growth response 1 (EGR1) のコンセンサス配列があることを見出したため、EGR1に着目した。EGR1とMIDNが結合するかどうかを免疫沈降法で確認した結果、PC12細胞およびヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞で、内因性のEGR1と過剰発現したMIDN-Flagとの結合が確認された。またMIDNとEGR1の結合部位を絞り込むために、配列の一部を欠損したMIDN-Flagを発現させて、EGR1との結合を調べた。さらに、MIDNがEGR1の転写活性に影響を与えるかを調べるために、EGR1の活性に依存してルシフェラーゼを発現するレポータープラスミドを作製し、活性を測定した。その結果、Midn KO PC12細胞では、EGR1依存性の転写活性が低下することが明らかになった。現在、我々は、EGR1の転写活性調節がMidn KO の表現型を制御するのか、Midn KO PC12細胞で観察される神経突起伸長の抑制をモデルとして検討を続けている。