巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、腎糸球体足細胞(ポドサイト)障害を基にした疾患であり、最終的には末期腎不全に至る難治性ネフローゼ症候群の代表的疾患である。病態発症機序は高血圧、免疫系の異常等諸説あるが、未解明な点も多く存在する。また、現在の治療法では完全な寛解に至っていないため、新規治療薬の開発が望まれている。
Sigma-1受容体(Sigmar1)は、細胞膜および小胞体に存在する細胞内分子シャペロンタンパク質である。これまでの研究では、心筋においてSigmar1の機能的発現減少が、心筋細胞障害を引き起こすことが明らかにになり、Sigmar1アゴニストが心疾患治療薬として有用性が示された(Tagashira et al., Life Sci, 2014; JPS, 2023)。最近では、心疾患以外の末梢疾患にもSigmar1が関与している可能性が指摘されているが、腎糸球体ポドサイトにおけるSigmar1の生理的役割及び病態形成への関与は、発現量を含めて明らかにされていない。本研究では、腎糸球体におけるSigmar1発現確認およびSA4503(Sigmar1選択的アゴニスト)の腎糸球体障害に対する効果を検討した。
ヒト腎糸球体ポドサイト株を用いたRT-PCR解析および野生型マウス腎組織を用いた免疫染色法により、腎糸球体ポドサイトにおいてSigmar1が高発現していることを見出した。次に、アドリアマイシン(ADR)によるポドサイト障害に対するSA4503およびNE-100(Sigmar1選択的アンタゴニスト)の効果についてヒト腎糸球体ポドサイト株を用いて検討した。ADRによるポドサイト障害は、SA4503処置により改善したのに対し、NE-100との同時処置によりSA4503の効果は消失した。さらに、ADR誘導性腎糸球体障害モデルマウスを作製し、in vivoにおけるSA4503の効果を検証した結果、ADR誘導性腎糸球体障害によるアルブミンの尿漏出が、SA4503投与により抑制された。また、NE-100との同時投与によりSA4503の効果が消失した。これらの結果から、SA4503によるSigmar1の活性化が、ADRによる腎糸球体障害に対して保護作用を示すことが明らかになった。Sigmar1は新規FSGS治療標的として有望である。