【背景・目的】リンパ管は血管とともに脈管系を構成し、からだのライフラインとして機能している。リンパ管は頸部の静脈角で血管と吻合しているが、末梢組織では血管から分離したネットワークを構成している。腫瘍切除に伴ってリンパ節郭清するとリンパ流がうっ滞し、リンパ浮腫が生じる。リンパ浮腫による歩行障害などを改善する治療法の一つとしてリンパ管細静脈吻合術があるが、専門的な機器や高度な手技を要する点に限界がある。リンパ管と血管の吻合形成を薬物投与によって実現できれば、新たなリンパ浮腫治療法となる可能性がある。これまでの研究で、血小板活性化不全マウスにおいて、末梢組織でリンパ管と血管の吻合形成が誘導される現象を見出している。しかし、血小板がどのように機能するのか未だ不明点が多いため、この作用機序の解明と応用を目的とした。
【方法】血小板活性化不全マウスにおいて、末梢組織でのリンパ管・血管吻合を検出するために、蛍光色素を血管造影しリンパ管へ流入するか観察した。そして、生理的に血小板がリンパ管内皮細胞と接触する機会があるのか、末梢組織を蛍光免疫染色し観察した。さらに、培養細胞系を用いて、血小板のリンパ管内皮細胞への作用を観察した。血小板から放出される因子に着目し、マウス胎仔にその阻害薬を投与した後に、末梢組織でのリンパ管と血管の構造を解析した。
【結果】血管造影法によって、血小板活性化不全マウスでのリンパ管・血管吻合が検出された。マウス胎仔皮膚においてリンパ管内皮細胞の突起が血管内に認められ、この部位でリンパ管内皮細胞が血小板と接触する可能性が示唆された。培養細胞系では、血小板によってリンパ管内皮細胞の突起退縮を認めた。この突起退縮は、活性化血小板の培養上清によっても観察され、血小板から放出される因子のうち候補因子を同定した。マウス胎仔に候補因子の阻害薬を投与すると、末梢組織でのリンパ管と血管の吻合を誘導できることが明らかになった。
【考察】血小板はリンパ管と血管が独立したネットワークを形成するのに重要な働きをしている。今回の結果より、血小板から放出される因子がリンパ管と血管の吻合形成を抑制し、正常な循環器系形成に働くと考えられる。今回の知見を発展させることで、薬物投与によるリンパ管・血管吻合形成が可能になり、リンパ浮腫の治療に役立つと期待される。