【目的】現代社会において、軟らかい食品の摂取やサプリメントの多用に起因する咀嚼回数の減少が、身体へ及ぼす影響の面から問題視されている。このような背景の下、当研究室では咀嚼習慣と身体的健康の関係性を明らかにすることを目的に検討を行い、マウスの長期間粉末食飼育における腸内細菌叢の変化、好中球、transient receptor potential vanilloid receptor-4(TRPV4)並びにaquaporin 4(AQP4)の活性化を伴う便秘様症状の発現について報告している(Sci. Rep. 2022他)。一方、これらの因子は、骨格筋の機能維持にも関与することが示唆されている。そこで本研究では、粉末食から固形食への置換および粉末食による飼育期間の違いによる便秘様症状の発現への影響について、マウスの結腸および咬筋を試料として検討を行った。
【方法】実験には、離乳直後3週齢のBalb/c雄性マウスを使用し、飼料は粉末タイプ(長期・短期粉末食飼育群)およびペレットタイプ(固形食飼育群)を用い、短期では2週間、長期では17週間の飼育を行った。また、飼育12週目から1か月間、飼料を粉末から固形に置き換えて飼育した群(置換群)を設けた。便秘様症状は、排泄された糞の数並びに糞中の水分量で評価した。さらに、結腸および咬筋を採取し、好中球(Gr-1)、TRPV4およびAQP4タンパク質の発現量について検討を行った。
【結果・考察】長期粉末食飼育群では、固形食飼育群と比較して、便秘様症状の発現、結腸Gr-1、TRPV4並びにAQP4発現量の有意な増加、咬筋TRPV4並びにAQP4発現量の有意な減少が認められたが、咬筋Gr-1発現量に変化は認められないことが明らかとなった。このうち便秘様症状に関する変化は、いずれも置換群において有意に改善するが、咬筋における変化は改善しないことが判明した。一方、短期粉末食飼育群では、固形食飼育群との比較において便秘様症状は確認されなかった。さらに、咬筋Gr-1およびTRPV4発現量の有意な減少が認められたがAQP4発現量に変化は認められないことが明らかとなった。以上のことから、咀嚼習慣は、結腸のみならず咬筋の機能維持にも影響を与えることが判明した。さらに、咬筋の機能維持に関して、特に幼若期からの咀嚼習慣の重要性が示唆された。