【背景と目的】肥満・2型糖尿病は心血管疾患の発症に強く関与している。Zucker fatty diabetes mellitus (ZFDM)ラットは2008年に樹立された肥満・2型糖尿病モデル動物である。Leptin受容体遺伝子のミスセンス変異がホモ接合性である個体(ZFDM-Leprfa/fa: Homo)は10週齢以降に肥満・2型糖尿病を発症するのに対し、ヘテロ接合性の個体(ZFDM-Leprfa/+: Hetero)は正常である。これまでに当研究室は、Heteroに比べHomoでは血中adrenaline (Adr)濃度が低下しているにもかかわらず血圧は正常であることを明らかにした(Int J Mol Sci, 2022)。その原因の1つとしてZFDMラットの摘出血管における反応性の変化が考えられた為、本研究はこれを明らかにすることを目的とした。
【方法】実験には21-23週齢の雄性HeteroおよびHomoを用いた。酵素電極法により血糖値を測定し、テイルカフ法により心拍数と収縮期血圧の測定を行った後、マグヌス法により摘出腸間膜動脈主部の等尺性収縮張力を測定した。
【結果と考察】Heteroに比べHomoでは血糖値が有意に高かった。また、Heteroに比べHomoで心拍数が有意に低下していたが、収縮期血圧に差はなかった。5-hydroxytryptamineおよびendothelin-1誘導性収縮反応はHeteroとHomoの間で差がなかったが、Homoではphenylephrine誘導性収縮反応が有意に亢進し、isoprenaline誘導性弛緩反応が有意に減弱していた。また、Homoではacetylcholine (ACh)誘導性弛緩反応が有意に減弱し、N(ω)-nitro-L-arginine methyl esterはHomoおよびHeteroのACh誘導性弛緩反応をいずれもほぼ完全に阻害した。一方、内皮剥離標本のsodium nitroprusside誘導性弛緩反応に差は認められなかった。以上よりHomoでは、Adrに対する血管反応性の亢進(α1受容体を介した収縮亢進とβ2受容体を介した弛緩減弱)により血圧が正常に維持されている可能性がある。また、Heteroと比べてHomoではnitric oxideを介したACh誘導性弛緩反応の減弱が示唆された。