[背景・目的]
加齢に伴う骨格筋の筋量減少と機能低下(サルコペニア)は健康寿命を短縮するだけでなく、不良な予後と関連する。蛋白のアセチル化修飾は多様な細胞機能を制御するが、最近我々は高齢マウスの骨格筋組織では蛋白アセチル化が亢進していることを報告した。またNAD+依存性ヒストン/蛋白脱アセチル化酵素であるSIRT1の活性化薬をマウスに処置すると、加齢によるサルコペニアと蛋白アセチル化亢進が抑制されることも見出した。さらに骨格筋特異的SIRT1ノックアウトマウス(SIRT1-MKO)では、サルコペニアと蛋白アセチル化亢進が観察された。本研究の目的は、加齢とSIRT1-MKOの骨格筋で共通して増加するアセチル化蛋白を同定することである。
[方法・結果]
10-19週齢の野生型若齢マウス(Young)と81週齢の野生型老齢マウス(Old)、ならびに10-19週齢の野生型マウス(WT)とSIRT1-MKOから前脛骨筋を採取した。蛋白ライセート中のアセチル化ペプチドを、アセチル化リジン抗体による免疫沈降とLC/MSで分析した。Young/Oldでは1213種類、WT/SIRT1-MKOでは1879種類のアセチル化ペプチドが検出された。Youngと比べOldで98種類の、そしてWTと比べSIRT1-MKOで90種類のアセチル化ペプチドの量が増加した(>1.5倍、P<0.05)。これら蛋白の機能を評価するためにKEGG Pathway解析とGene ontologyを用いたエンリッチメント解析を行った。Youngと比べOldで増加したアセチル化蛋白はTCA cycleとmetabolic pathwayに関連していた。SIRT1-MKOで増加したアセチル化蛋白はTCA cycle、metabolic pathway、nucleosome assembly、muscle contractionに関連するものであった。OldとSIRT1-MKOで共通して増加したアセチル化蛋白には、多数のミトコンドリア蛋白が含まれていた。
[結論]
以上の結果から、加齢に伴うSIRT1活性低下はミトコンドリア蛋白を含む代謝に関連する蛋白のアセチル化の亢進につながり、その結果サルコペニアの発症に関与する可能性が示唆された。