マクロファージは機能的に炎症性のM1マクロファージと抗炎症性のM2マクロファージに大別される. M2マクロファージはarginase-1の発現を特徴としており, アルギニン代謝を介して抗炎症反応, 組織修復反応に寄与する. サイクリン依存性キナーゼ (CDK)は, 細胞周期制御に関わるCDKと転写制御に関わるCDKの2つのファミリーに分類され, CDK8とそのパラログであるCDK19は後者である. 近年, CDK8/19阻害剤による制御性T細胞の誘導効果が明らかとなり, 免疫関連疾患への応用が注目されている. そのため, 多くのCDK8/19を阻害する低分子化合物の開発, 研究が進み, BRD6989はそのうちの一つである. しかし, マクロファージにおけるCDK8/19阻害薬によるarginase-1発現への影響については不明である. 本研究では, マウスマクロファージ細胞株RAW264.7細胞におけるBRD6989によるarginase-1発現への影響を解析した.
BRD6989単独ではarginase-1発現に影響を与えなかった. RAW264細胞をM2マクロファージ誘導サイトカインであるIL-4で刺激すると, arginase-1発現が誘導される. IL-4刺激の2時間前にBRD6989を処置した結果, IL-4誘導性arginase-1発現が増強した. さらに, このBRD6989によるarginase-1発現増強は p38 MAPキナーゼ阻害剤によって抑制された. そこで, BRD6989によるp38 MAPキナーゼ活性化を解析した結果, BRD6989は単独でp38 MAPキナーゼを活性化することが明らかとなった.
本研究により, マクロファージにおいてCDK8/19阻害薬であるBRD6989はp38 MAPキナーゼ活性化を介してIL-4誘導性arginase-1発現を増強させることを見出した. また, BRD6989と同様に, 他のCDK8/19阻害薬によってもarginase-1発現が増強することを確認している. これらの結果により, CDK8/19阻害薬のM2マクロファージ誘導効果が示唆され, 今後, マクロファージが関連する免疫疾患への応用も期待される.