ナファモスタットメシル塩酸塩(ナファモスタット)は、急性膵炎や播種性血管内凝固症候群の治療に用いられているプロテアーゼ阻害薬である。我々は、過去にラットへのナファモスタット1および3 mg/kg投与が、抗がん剤として用いられるメトトレキサート(MTX)によるラット小腸からのセロトニン(5-HT)遊離を抑制することを報告した。一方、大腸炎モデル動物におけるナファモスタットの抗炎症作用は必ずしも用量依存的でないことが示されている。本研究では、MTX投与による5-HT合成系亢進作用に対するナファモスタット(1および3 mg/kg)投与の影響を検討した。
 9週齢のウィスターラットに12.5 mg/kgのMTX及びナファモスタット1または3 mg/kgを24時間毎に4回それぞれ腹腔内投与、皮下投与し最終投与24時間後に小腸を摘出した。小腸組織形態をHE染色にて観察し、絨毛長を計測した。5-HT含量、5-HT合成の律速酵素であるトリプトファン水酸化酵素(TPH)活性をHPLC-ECDにて測定した。5-HT代謝酵素のモノアミン酸化酵素(MAO)活性を蛍光光度計により測定した。mRNA発現をリアルタイムRT-PCR法にて解析した。
 ナファモスタット1 mg/kg投与はMTXによる体重減少および小腸絨毛長短縮を改善させたが、ナファモスタット3 mg/kg投与はこれらに影響を与えなかった。同様に、ナファモスタット1 mg/kg投与は、MTXによる小腸5-HT含量の増加、TPH活性の上昇、TPH1 mRNA発現増加を有意に抑制したが、ナファモスタット3 mg/kg投与はこれらに影響を与えなかった。一方、いずれの用量のナファモスタットは、MAO活性に影響を与えなかった。
 本研究によりナファモスタットは、抗がん剤誘起性5-HT合成亢進作用を抑制するものの、その作用は用量に依存しないことが明らかとなった。ナファモスタットは、低用量でよりトリプターゼに対する選択性が高まる。トリプターゼで活性化されるプロテアーゼ活性化受容体-2(PAR-2)が消化管炎症に関与していることからも、ナファモスタットによるPAR-2阻害が5-HT合成系抑制作用に関連している可能性が考えられた。