Duchenne型筋ジストロフィーはdystrophin遺伝子の異常により進行性の骨格筋・心筋障害を来たす予後不良な疾患である。オートファジーは骨格筋の維持に重要と考えられているが、筋ジストロフィーの骨格筋ではオートファジーが抑制されている。我々はDuchenne型筋ジストロフィーのモデルであるmdxマウスにおいてNAD+依存性蛋白脱アセチル化酵素SIRT1の活性薬がオートファジーを活性化させ骨格筋病態を改善することを報告した。しかし、筋ジストロフィー症の骨格筋におけるオートファジー障害のメカニズムは不明である。本研究の目的は、mdxマウスを用いて、Duchenne型筋ジストロフィー症の骨格筋におけるオートファジー障害のメカニズムを明らかにすることである。
野性型マウスとmdxマウスの前脛骨筋を解析した。ウェスタンブロット法でオートファジー活性の指標であるLC3-I、 LC3-IIを評価した。野生型マウスと比較してmdxマウスではLC3-IIやtotal LC3 (LC3-I+LC3-II) のレベルが有意に増加していたことから、オートファジー活性が障害されていると考えられた。定量PCRを用いてオートファジー関連因子の遺伝子発現を評価した。Map1lc3b、Beclin1、Atg5、Pink1、Bnip3、Fundc1などのオートファジー・マイトファジーの進行に関与する遺伝子の発現は、野生型マウスと比較してmdxマウスで有意に減少していた。オートファジー関連遺伝子の転写に重要であるtranscription factor EB (TFEB) の細胞内局在を免疫蛍光染色により評価した。Mdxマウスでは野生型マウスと比べて、核に局在するTFEBが有意に減少していたことから、TFEBが核外にとどまりその転写活性が低下していると考えられた。TFEBはmTORC1にリン酸化を受けることにより核から細胞質への局在が促進されるが、ウェスタンブロット法で評価したリン酸化TFEBのレベルは、野生型マウスと比較してmdxの骨格筋で有意に増加していた。またTFEBの蛋白レベル自体には両者で差はなかった。
これらの結果から、mdxマウスの骨格筋においてはmTORC1活性亢進によりTFEBの核外移行の促進と転写活性の阻害の結果、オートファジーが障害される可能性が示唆された。