【背景・目的】Tribble homolog 2 (TRIB2)は、種を超えて保存されたpseudokinaseドメインを持ち、アダプタータンパク質として、様々な細胞内シグナル伝達を制御することが報告されている。しかしながら、血管平滑筋細胞(Vascular smooth muscle cells: VSMC)におけるTRIB2の機能的な役割は知られていない。VSMCの過剰な増殖ならびに遊走は、動脈硬化進展に大きく寄与することから、本研究ではVSMCの増殖・遊走におけるTRIB2の役割ならびにTRIB2の発現機構について明らかにすることを目的とした。
【方法】10週齢のC57BL/6Jマウスの左頸動脈の分岐部を結紮して誘導された内膜肥厚形成の程度(intima/media比)を、HE染色より評価した。内膜肥厚部位ならびにPDGF-BBで処理したVSMCを用い、TRIB2の発現をウエスタンブロッティングならびにリアルタイムPCRにより検討した。細胞増殖はMTSアッセイ、direct cell counting法、およびPCNA発現により、細胞遊走はスクラッチアッセイにより検討した。各種阻害剤およびsiRNAを用い、TRIB2発現のシグナル解析を行った。
【結果】マウスの血管内膜肥厚部位およびPDGF-BB処理したVSMCでは、TRIB2の発現が有意に増加した。TRIB2のノックダウンは、PDGF-BBによるERKのリン酸化、PCNA発現、細胞増殖、および細胞遊走を有意に減少させた。NADPHオキシダーゼ阻害薬DPI、MEK阻害剤U0126、およびEgr-1に対するsiRNA処理は、PDGF-BBによるTRIB2の発現を有意に抑制した。
【考察】本研究の結果から、(1)VSMCにおいて、PDGF-BB刺激によるTRIB2の発現増加は、ROS/ERK/Egr-1経路を介して誘導されること、(2)TRIB2は、ERKの活性を制御し、VSMCの増殖を正に制御することが示唆される。結論として、TRIB2が、動脈硬化の進展に重要な役割をもつことが示唆され、動脈硬化の新たな治療ターゲットとして有用であることが考えられる。