加齢によって骨格筋量や筋力が減少するサルコペニアは老化による機能低下のうち特に重要なものであり、高齢者のQOLの低下や死亡率に関わっている。サルコペニアの原因のひとつには筋再生能力の低下が挙げられる。
サルコペニアなどの老化関連疾患に対する抑制分子として、Nicotinamide adenine dinucleotide (NAD+)が注目されている。NAD+は生体に必須の分子であり、エネルギー代謝やDNA修復、タンパク質の翻訳後修飾の調節など重要な生物反応に関わっている。体内のNAD+量は加齢に伴って減少することが知られており、このNAD+量の減少は各組織の機能低下を介して老化関連疾患を引き起こす。また、一方でNAD+の補充は老化関連疾患の予防・治療に有効であると考えられており、実際にNAD+前駆体はミトコンドリア機能を改善することによって加齢による骨格筋機能の低下を抑制することが報告されている。
加齢によるNAD+量の減少にはNAD+分解酵素であるCD38の発現量増加が関与しており、CD38の発現増加はNAD+量の減少を介して代謝機能の低下や細胞老化、組織の線維化などの老化過程を促している。また、CD38の遺伝的な欠損やCD38の阻害によってNAD+量は劇的に増加することが報告されているため、CD38は抗老化の標的として注目されている。実際に、CD38の阻害剤は老化による骨格筋機能の低下を改善することから、CD38がサルコペニアの予防・治療ターゲットとして期待されている。
そこで、本研究ではCD38と筋再生の関係を明らかにするため、CD38の阻害や遺伝子欠損が筋再生に与える影響について検討した。本学会ではこの結果をもとに、CD38の阻害によるサルコペニアの予防・治療法について議論したいと考えている。