【目的】近年、炎症性腸疾患(IBD)及び過敏性腸症候群(IBS)は増加傾向にあり、これらの疾患の原因の一つとして食習慣が関与していると考えられている。当教室ではこれまで、咀嚼と消化器症状の関連性に着目して検討を行い、その結果、マウスの長期粉末食飼育により、好中球、transient receptor potential vanilloid receptor-4(TRPV4)並びにaquaporin 4(AQP4)の活性化を伴う便秘様症状が認められたことを報告した(第70・72回日本薬理学会北部会)。そこで本研究では、マウスの長期間粉末食飼育により認められた便秘様症状について、その発現メカニズムの更なる検討並びに咀嚼と消化器症状の関連性の観点から、咀嚼運動負荷トレーニングの効果について検討を行った。
【方法】実験には、離乳直後3週齢のBalb/c雄性マウスを使用し、飼料は粉末タイプ(粉末食飼育群)及びペレットタイプ(固形食飼育群)を用い、17週間飼育を行った。また実験には、好中球エラスターゼ阻害薬・シベレスタットを使用した。便秘様症状は、糞の数並びに糞中の水分量で評価した。咀嚼運動負荷トレーニングは、1日2時間マウスの口元に設置したプラスチック板を自由に噛み砕かせ、これを粉末食飼育13週目から4週間実施した。更に、結腸組織をサンプルとして、好中球(Gr-1)、TRPV4及びAQP4タンパク質の発現量について検討を行った。
【結果・考察】固形食飼育群と比較して粉末食飼育群においては、便秘様症状の発現、Gr-1、TRPV4並びにAQP4タンパク質の発現量の有意な増加が認められた。一方、粉末食飼育群にシベレスタットを投与した結果、便秘様症状及びTRPV4発現量の増加に対して有意な改善が、また、AQP4発現量に対して改善傾向が認められた。更に、4週間の咀嚼運動負荷トレーニングを行った結果、便秘様症状、Gr-1、TRPV4並びにAQP4タンパク質の発現量に対して有意な改善効果が認められた。以上のことから、マウスの長期間粉末食飼育により発現する便秘様症状のメカニズムとして、好中球の活性化に起因するTRPV4並びにAQP4の関与が明らかとなった。また、咀嚼活動負荷トレーニングにより便秘様症状等の改善が認められたことから、粉末食による咀嚼回数の減少が、それらの発現に影響を与える可能性が示唆された。