Midnolin (MIDN) は胎生期のマウスの中脳に発現する遺伝子として見出されたが、その病態生理学的な役割はほとんど明らかになっていなかった。これまで当研究室では、山形と英国の分子疫学研究によって、MIDNのコピー数の減少 (欠損) がパーキンソン病の発症リスクを高めることを見出したが、MIDNの欠損がどのようにパーキンソン病の発症に関与するかは不明である。そこで、我々はMIDNの分子機序を明らかにすることで、パーキンソン病の発症機序の解明や将来的に新しい治療法を開発することを目的とした。今回新たにCRISPR/Cas9法を用いてMidn遺伝子を欠損したラット褐色細胞腫由来PC12細胞を樹立した。神経成長因子 (NGF) 刺激応答性の神経突起伸長が、Midnの欠損によって大きく抑制されることが明らかになった。また、Midn欠損は、様々な遺伝子の発現変動を惹起することが、RNA-シーケンス解析で明らかになった。MIDNは主に核内に局在するが、DNA結合領域を持たないと考えられているため、我々は転写を制御する何らかの因子にMIDNが結合し、その機能を調節することで、遺伝子発現を制御するのではないかと仮説を立てた。データベース上でMIDNと結合する可能性が報告されている転写因子の中から、PC12細胞の神経突起伸長への寄与が報告されている転写因子EGR1 (early growth response 1) に着目し、MIDNと結合するかを免疫沈降法で確認した。その結果、NGF刺激したPC12細胞およびインスリン刺激したヒト神経芽細胞腫由来SH-SY5Y細胞で、内因性のEGR1と過剰発現したMIDN-Flagとの結合が確認された。現在、MIDNがEGR1依存性の遺伝子発現に影響を与えるかを明らかにするために、EGR1の活性依存性にルシフェラーゼを発現するレポータープラスミドを作製し、Midn欠損細胞や過剰発現細胞におけるEGR1の活性の定量を行なっている。