背景と目的 乳癌を代表とする複数の癌においてTASK-3の発現増加が生存率低下に関係することが報告されている。TASK-3は2回膜貫通領域の構造をもつ酸感受性のカリウム(K+)チャネルであり、これらの癌細胞において細胞周期G1/Sの過分極相の形成に関与すると考えられている。発現が報告された細胞株では形質膜の他にミトコンドリアにも局在しているが、TASK-3の局在と増殖能の関係は未だ十分に解明されていない。この細胞内局在の役割を明確にするため、形質膜上のTASK-3に焦点を絞り、TASK-3の酸感受性に影響を与える変異体を用いて、弱酸性条件下でK+透過性の変化と細胞増殖の関連性を調べた。
方法 蛍光タンパクをN末端に融合させた野生型TASK-3からH98KとH98Rの点変異体を作製した。電気生理学的な評価はアフリカツメガエル卵母細胞を用い、2電極膜電位固定法により行った。安定発現株はHEK293を用いて樹立した。細胞増殖は pH 7.4及び、pH 6.8のMEM培地(5% CO2、37℃)で培養し、播種4日後の細胞数を比べた。
結果と考察 野生型TASK-3を発現させた卵母細胞では、保持電位 +60 mV において、pH 7.0 から電流が減少し、pH 6.0 では殆ど消失した。変異体H98Kでは、pH 7.0 から電流が減少し、pH 6.0 では、pH 9.0 の電流量の約60%に減少した。変異体H98Rでは、pH 7.0 から電流が減少したが、pH 6.0 でもpH 9.0 の電流量の約80%であった。TASK-3の98番目のヒスチジンからリジンへの変更では酸感受性が中程度弱くなり、アルギニンの変更では大きく減弱した。それ故H98R安定発現株の細胞増殖に用いた。pH 7.4 の培養では、対照株、野生型株、変異体株の間で細胞数に大きな差はみられず、pH 6.8 の培養では、細胞数が対照株に比べ、野生型株、変異体株、共に半分程度まで減少していた。野生型株、変異体株の間では大きな違いはなかった。pH 6.0 では野生型と変異体の間でK+電流に差があるにも関わらず、細胞増殖ではpH7.4と6.8の差はなかった。pH 6.8における細胞増殖能の減少は、pH7.4 ~ 6.8 間の形質膜のTASK-3のK+透過性の変化によるものではないことを示唆している。形質膜上のTASK-3の発現量と増殖能との関連性が考えられる。