ヒスタミンは神経伝達物質として脳内で様々な機能を担っている。ヒトを対象とした研究により、脳疾患においてヒスタミン量が減少していることや、ヒスタミン量の増加に脳保護作用がある可能性が示された。従って、薬物により脳内ヒスタミン量を増加させると、ヒスタミン系が活性化し、脳機能が改善されることが期待される。我々はヒスタミン代謝酵素であるhistamine N-methyltransferase(HNMT)欠損マウスを作製・解析し、HNMTがヒスタミン濃度調整に大きく関わっていることを示してきた。そこで本研究ではHNMT阻害作用を有するメトプリン(metoprine)をマウスに投与し、脳機能の変化について行動薬理学的な解析を実施した。
まずmetoprineの投与によりヒスタミン濃度がどの程度上昇するかを検討した。10 mg/kgを腹腔内投与し、2時間後に脳を摘出してヒスタミン濃度を測定したところ、約2倍程度にヒスタミン濃度が増加することが示された。次に雄性ICRマウスにmetoprineを投与し、行動薬理学的解析を行った。オープンフィールドテストでは行動距離の増加と行動時間の延長が確認され、高架式ゼロ迷路テストおよび明暗試験箱テストでは不安様行動の減少が認められた。また強制水泳試験および尾懸垂試験ではうつ様行動の減少が認められた。また脳波解析によりmetoprineの投与は覚醒時間の延長作用およびNREM(non-rapid eye movement)睡眠およびREM睡眠の減少作用があると考えられた。以上のことからmetoprineには活動量の増加作用、抗不安作用、抗うつ作用、覚醒作用があると考えられた。
本研究により、HNMTを薬理学的に阻害すれば、脳内ヒスタミン濃度が上昇し、脳機能が活性化されると考えられた。しかしmetoprineは特異的なHNMT阻害剤ではなくジヒドロ葉酸還元酵素阻害作用も有している。HNMT阻害による脳機能改善効果を遺伝学的に検証すること、特異的なHNMT阻害剤を見いだすことが今後の検討課題として考えられる。