日内リズムは脳・視床下部の視交叉上核に存在する体内時計によって生み出されている。視交叉上核の生み出すリズムの周期は24.5時間であるため、体内時計の針（位相）は視神経を介して視交叉上核に伝達される光同調シグナルによってリセットされ正確な24時間の日内リズムを生み出している。
近年の社会の24時間化などの光環境の変化により体内時計の光同調が十分に行われないと、外界の環境周期と体内時計の内因性リズムの間に脱同調が生じ、体内時計の機能不全をもたらして睡眠障害などを引き起こすことが知られている。したがって、体内時計の光同調機能を強化する薬物や食品成分は睡眠覚醒リズム障害の治療だけでなく、様々な疾患を予防する上で有用であると思われるが、そのような薬物や食材成分は開発されていない。一方、多機能性タンパク質ラクトフェリンは乳中に含まれれる塩基性タンパク質であるが、私たちはラクトフェリンの慢性投与がマウス行動リズムの光同調を増強することを報告してきた。本研究では光照射に対する視交叉上核の時計遺伝子の急性発現応答に対するラクトフェリンの作用を解析し、光同調増強効果の作用機序の一端を明らかにすることを目的とした。その結果、視交叉上核内の光同調シグナルの二次受容領域と呼ばれるサブ領域において光照射による時計遺伝子 Per1 の mRNA発現を上昇させることを見出すことができた。視交叉上核の二次受容領域には一次受容領域において視神経の投射を受けているガストリン放出ペプチド（GRP）産生ニューロンの神経終末が存在していることからGRPを介した光同調シグナル応答をラクトフェリンが増強しているのではないかと考え、GRPの脳室内投与に及ぼすラクトフェリンの作用を解析したところ、光照射と同様にGRP応答に対しても増強効果を示した。以上の結果より、ラクトフェリンはGRP受容体を介した体内時計の同調反応を促進する可能性が示唆された。