現代社会では5人に1人が睡眠障害を抱え、過半数が満足のいく睡眠を取れていないと感じているとされる。こうした睡眠不足に伴う経済損失・疾患リスクの増加は深刻な社会問題となりつつあるが、多くの睡眠障害では薬による原因治療が難しい。その理由として、睡眠を制御する神経メカニズムの大部分が未解明であるという点が挙げられる。とりわけ、従来頻用されるモデル動物の多くは夜行性かつ多相性の睡眠をとるため、ヒトがとる夜間の単相性の睡眠に対する理解は不十分である。
そこで私たちは、爬虫類であるオーストラリアドラゴン(Pogona vitticeps、以下ドラゴン)を睡眠研究の新たなモデル動物として導入すべく検討を試みている。ドラゴンは昼行性で、夜に単相性の睡眠を取り、ノンレム睡眠とレム睡眠が周期的に出現するなど、ヒトと類似した睡眠様態を示す。さらに、電気生理学的実験や薬理学的手法もげっ歯類と同等の難易度で適用できるため、睡眠研究に適している可能性がある。本研究では、ドラゴンの睡眠の基本的性質を明らかにするために断眠処置を行い、個体ごとの睡眠時間を規定する睡眠恒常性の有無の確認を行った。
夜間の開始から、光やジェントルハンドリングによって7時間の断眠を行ったところ、その後の睡眠に変化が見られた。まず、コントロールと比べ、起床時間が後退したことから、ドラゴンにおいても睡眠恒常性の存在が明らかとなった。また、断眠後の睡眠を詳細に解析すると、レム睡眠に強いリバウンドが観察された。
さらに断眠によって、その後の睡眠中におけるレム睡眠・ノンレム睡眠の規則的な出現リズムにも変化が見られた。これは単相性の睡眠をとる動物を用いたからこそ見られたパラメータであるといえる。本発表では、こうしたドラゴンを用いた睡眠研究の長所について、ヒトや他モデル動物との比較を交えながら議論したい。