【目的】アストロサイトは多数の突起を有した複雑な構造をしており、その形態は中枢神経系の生理機能や病態形成と密接に関連している。また、アストロサイトはアドレナリン受容体(AR)をはじめとする様々な受容体を発現しており、多様な伝達物質によって培養アストロサイトの形態が変化することが報告されている。本研究室においても、ARが培養アストロサイトの突起形成を制御し、α2-ARの活性化はアストロサイトの突起形成を抑制することを明らかにした。しかし、鎮静薬として一般的に用いられるα2-AR作動薬デクスメデトミジン(DEX)が生体内アストロサイトの形態に与える影響は不明である。そこで本研究はDEXが海馬アストロサイトの形態に与える影響をin vivo及び脳急性スライス標本で検討した。
【方法】マウスにDEX(1-100 µg/kg)、α2-AR拮抗薬アチパメゾール(ATIP)(0.1-1 mg/kg)を腹腔内投与し、一定時間後(0.5-72時間)に脳を摘出し、スライス標本を作成した。さらにラット脳急性スライス標本を作成し、DEX(10 µM, 90分間)を処置した。脳スライス標本をアストロサイトマーカーのGFAPで免疫染色し、得られた蛍光画像からアストロサイトの突起の長さや本数、支配領域などを自動解析ツール(SMorph)を用いて評価した。また、海馬におけるGFAPの発現量をウェスタンブロット法で、マウスの活動量をオープンフィールドテストで評価した。
【結果】DEXの腹腔内投与は、濃度依存的に海馬アストロサイトの突起を短縮させ、GFAPの発現量を低下させた。この反応はDEX投与後3時間をピークとし、24時間後も続いていた。また、ATIPは単独でアストロサイトの突起を伸長させた。一方、脳急性スライス標本ではDEX処置でアストロサイトの形態は顕著な変化を示さなかった。
【考察】本研究よりα2-ARが生体内アストロサイトの突起の伸長を抑制することで、形態を制御していることが示された。この効果はDEXの鎮静効果が消失した後にも持続していると考えられる。また、脳急性スライス標本ではこの反応が見られなかったことから、DEXはアストロサイトのα2-ARに直接作用しているのではなく、ニューロン活動の抑制等を介して作用している可能性がある。