【目的】Oxaliplatin (OXA) は臨床での大腸がんや胃がんに対し広く用いられる抗がん剤であるが, しびれや冷的アロディニア等の末梢神経障害が起こることが問題となっている。当研究室ではこれまで,Pituitary adenylate cyclase-activating polypeptide (PACAP) およびその受容体のPAC1受容体が疼痛の慢性化に重要であることを明らかにし,初めてのPAC1受容体小分子アンタゴニストPA-8の開発に成功した(Takasaki et al., JPET, 2018)。さらにPA-8誘導体のPA-81004は, 神経障害性疼痛モデルに対して強い鎮痛効果を示すことを明らかにした(Takasaki et al., Eur J Med Chem, 2022)。本研究では,OXA誘発性冷的アロディニアへのPA-81004の予防効果を検討した。
【方法】ddYマウス(雄性, 6週齢)を使用し,OXA (5 mg/kg) は単回腹腔内投与した。冷的アロディニアはマウスの後肢にアセトンを付着させ,1 分間足を振る, 舐めるなどの疼痛様行動の時間を測定するアセトンドロップ法により評価した。PA-81004はシオノギファーマ株式会社のGMPレベルで合成していただいたものを使用した。
【結果】OXA投与1日後から冷的アロディニアが発症し, 4日後をピークに少なくとも6日間持続した。またOXA投与後に体重減少, 体重増加の抑制が見られた。PA-81004(0.1-30 mg/kg)をOXA投与30 分前と2.5および5.5時間後に腹腔内投与した結果,用量依存的な抑制効果は見られたが,連投の影響と思われる体重減少が見られた。そこでOXA投与30分前の単回腹腔内投与(0.1-3 mg/kg)した結果,体重減少はなく, 抗アロディニア効果が確認された。臨床における投与経路を想定し,静脈内投与の効果を検討した。PA-81004の静脈内投与は,腹腔内投与よりも強く冷的アロディニア発症を抑制し,体重減少に対する抑制も見られた。
【考察】本研究では,PAC1受容体拮抗薬PA-81004の単回腹腔内投与, 静脈内投与が,OXA誘発性冷的アロディニアに対する優れた予防効果を示すことを明らかにした。PAC1受容体がOXA誘発冷的アロディニアに関与し,PA-81004がOXA誘発性末梢神経障害に対する鎮痛薬となることが示唆された。