【目的】 痒みは「掻きたいという衝動を引き起こす感覚」であり, 不快感や不安を伴う。痒みを引き起こす要因の一つに各種痒みメディエーターが挙げられる。慢性掻痒において, これらの物質が関与する痒み情報伝達経路は数多く存在している。そのため, 個々の経路を標的とした既存の治療薬による奏功例は数少なく課題となっている。これら痒みの情報伝達経路はヒスタミン依存性, 非ヒスタミン依存性の経路に大別され, いずれの経路でも主にC線維を介して情報が伝達される。C線維には電位依存性Ca2+チャネルα2δサブユニットが発現していることが知られており, これを標的とする新規ガバペンチノイドであるミロガバリンは鎮痒薬として応用できる可能性がある。そこで本研究では各種起痒物質に対するミロガバリンの鎮痒効果について行動薬理学的に解析した。
【方法】 実験には雄性ICRマウスを用いた。起痒物質にはヒスタミン, クロロキンおよびCompound 48/80を用いて吻側背部に皮内投与した。対照群として生理食塩水を用いた。ミロガバリンは10 mg/kgで経口投与し, 対照群として蒸留水を用いた。鎮痒作用における作用部位の検討では, ミロガバリンを皮内投与(10 μg/50 μl), 大槽内投与(10 μg/5 μl)したのち, 起痒物質を皮内投与した。また, 掻き動作はSCLABA®-Nextを用いて定量的に解析した。運動機能の評価にはrotarod test, wheel running test, locomotor activity testを用いた。
【結果】 各種起痒物質の皮内投与によりマウスの掻き動作数は有意に増加した。ミロガバリンの経口投与により, 各種起痒物質により誘発される掻き動作数は有意に減少した。また, ミロガバリン投与による運動機能への有意な影響はみられなかった次いで作用部位の検討を行ったところ, ミロガバリンの皮内投与では, 各種起痒物質誘発の掻き動作数に有意な変化はみられなかったが, 大槽内投与ではいずれも減少傾向がみられた。
【考察】 以上の結果から, ミロガバリンがヒスタミン依存性およびヒスタミン非依存性の両経路を介した痒みに対して鎮痒効果を示すことが明らかとなった。また, 同じ測定条件でミロガバリンを局所投与すると, 大槽内投与でのみ掻き動作数に変化がみられたため, ミロガバリンの鎮痒効果には脊髄を中心とする中枢神経系が主に関与していると考えられる。