【目的】
中枢神経系におけるヒスタミンは、主に結節乳頭核(TMN)で産生され、学習・記憶のほか、睡眠・覚醒、摂食、神経内分泌の調節などに関与している。これまでに、私たちは、ヒスタミンH3受容体逆アゴニストによるヒスタミン神経系の活性化が、時間経過により忘れてしまった記憶の想起を増強させることを明らかにした。しかし、記憶・学習に伴ってヒスタミン神経がどのように活性化するかは不明である。本研究では、ファイバーフォトメトリー法を用いて、様々な刺激を与えた時のヒスタミン神経の活動を測定することで、どのような刺激がヒスタミン神経を活性化させるのかを調べた。
【方法】
ヒスタミン神経選択的にCreリコンビナーゼを発現するHDC-CreマウスとCre依存的に目的遺伝子を発現させるAAVベクターを用いて、TMNヒスタミン神経に蛍光Ca2+センサーGCaMP6sを導入した。TMN上部に光ファイバーを埋め込み、光ファイバーを介して励起光を照射し、同じ光ファイバーから蛍光検出を行うことでヒスタミン神経の活動を計測した。物体、音、スクロース水(報酬刺激)、Air puff(嫌悪刺激)を提示した際、および、音の提示と報酬の条件づけ時のヒスタミン神経の活動を計測した。
【結果・考察】
マウスが新規物体を探索する時にヒスタミン神経の活動が上昇し、その活動は探索を重ねるごとに減少した。また、音や報酬刺激、嫌悪刺激などの様々な生理的刺激を提示したときにヒスタミン神経活動が増加することが明らかになった。ヒスタミン神経は新規の刺激に応答して活動を上昇させ、記憶形成を調節する可能性が考えられる。また、音の提示と報酬の条件づけを行うと、音の提示によって報酬記憶を想起する際に、音単独の提示と比較してヒスタミン神経の活動が増加した。このヒスタミン神経の活性化が記憶想起の促進に寄与している可能性が考えられる。