抗体−薬物複合体 (Antibody drug conjugate:ADC)は、抗体医薬品の先鋭化・高機能化を担うものとして、開発が盛んに行われており、その認可数も急速に増えている。放射性同位体を抗体に結合させたradioimmunotherapy 製剤や近赤外線照射による光免疫療法もADCの一法であるともいえる。対象疾患もがんのみならず、他疾患への基礎的検討についても報告されている。
ADCは、抗体に毒性の高い低分子化合物をリンカーを介して付加したものである。ADCは、分子量が大きい化合物が、がん新生血管から漏れ出て滞留するEPR (enhanced permeability and retention) 効果と、抗体の抗原への高い親和性を利用して、搭載薬物を目的部位に送達するドラッグ・デリバリー・システムの一法である。抗体に結合された低分子化合物が疾患部位で放出されることで、目的部位において選択的に毒性を示し、therapeutic windowを拡大できることからプロドラッグとも捉えることもできる。ADCは、抗体のもつ細胞表面への高い親和性と、細胞内タンパク質をターゲットにできる低分子化合物のそれぞれの特性を取り入れた剤形であるといえる。
有効なADC を作製するには、ADCに適した抗体の取得、ADCに適した搭載化合物の選択、ADCの安定性、ADCの体内動態と搭載化合物の放出機構のマッチングの設計など様々な戦略が必要である。抗体、および搭載薬物のそれぞれの機能が優れた特性を有していたとしても、単に抗体に搭載薬物を結合するだけで有効なADCが作製できるわけではない。また、均一構造のADCの作製は、ADCのtherapeutic windowをさらに拡大し、加えて薬効や製造時の再現性が担保されるため、いくつかの手法が報告されている。
本講演では、最先端の研究例を例示しながら、ADC開発の基礎について概説する。