【目的】内向き整流性K+チャネルは心房筋細胞の静止膜電位維持や活動電位再分極相形成に寄与する。IKAChは心房選択的抗不整脈のターゲットとして近年までに注目され、その阻害薬の薬理作用に関する研究が多く行われてきたが、IK1阻害薬の作用に関する情報は少ない。本研究では、近年開発された選択的IK1遮断薬ペンタミジンアナログ6 (PA-6)が心房の電気生理学的特性に与える影響を心房拡大を有する動静脈瘻(aorto-venocaval shunt : AVS)ラットを用いて検討し、その効果を選択的IKACh阻害薬tertiapinと比較した。
【方法】Wistarラットを麻酔下で開腹して腹部大動脈と下大静脈間でAVSを作製し、4週間後に摘出した心房を用いて伝導速度と有効不応期を測定した。PA-6の作用は200 nMを添加して30分毎に120分後まで、tertiapinの作用は1, 10, 30, 100 nMの各濃度を添加した後に評価し、それぞれの作用をShamラット心房における効果と比較した。
【結果】PA-6はAVS群(n=7)で心房内伝導速度の低下傾向と有効不応期の有意な延長作用を示し、これらの作用はSham群(n=6)の心房では認めなかった。TertiapinはAVS群(n=5)で有意な心房内伝導速度低下作用と有効不応期延長作用を示し、その効果はSham群(n=6)でも認められたが、その程度はいずれもAVS群の方が大きかった。AVS群の心房内伝導抑制作用の程度は、IK1に対し100%阻害を示す200 nMのPA-6で–16%、IKAChに対し100%阻害を示す100 nMのtertiapinで–43%であり、一方、有効不応期延長作用の程度はそれぞれ+13%および+101%であった。伝導速度と有効不応期の積として算出される興奮波長はPA-6によりほとんど影響を受けなかったが、tertiapinでは延長傾向を示した。
【結論】IK1阻害薬はAVS群で伝導速度低下と有効不応期延長作用を示し、催不整脈効果と抗不整脈効果の双方を呈する可能性が示された。心房筋の静止膜電位はAVS群でやや浅いことが確認されていることから、Sham群とAVS群の心房におけるIK1阻害薬の効力の違いには静止膜電位維持力や再分極予備能の低下が寄与することが推定され、この作用特性は内向き整流性K+チャネル阻害薬に共通したものと考えられた。