【目的】動静脈瘻(Aorto-venocaval shunt; AVS)形成術は心不全を惹起する実験手法のひとつであり、容量負荷の増大により術後1週間から心肥大・拡大を誘発するが、心機能低下に至るには約4か月を要することが知られている。本研究では、慢性容量負荷とisoproterenolによる慢性的なβ受容体刺激の組合せが心機能に与える影響を、動静脈瘻モデルラットを用いて検討した。
【方法】Wistarラット(n=20)を実験に用い、AVS形成術とisoproterenol(ISO; 25 µg/h)投与の有無により、ラットを4群(Sham群、Sham+ISO群、AVS群、AVS+ISO群)に分けた。麻酔下で開腹し、腹部大動脈−下大静脈間にAVSを作製後、isoproterenolを充填した浸透圧ポンプを腹腔内に留置して閉腹した。術後25-28日の時点でラットを麻酔し、心臓超音波検査による心機能評価と解剖学的評価を行った。
【結果】Isoproterenolを負荷した動物群では心拍数に増大傾向が認められた。AVS群の左室収縮・拡張末期容積(左室長軸断層像)はSham群に比べ有意に増大し、AVS+ISO群ではAVS群に比べ約30%減少した。AVS群の心拍出量はSham群に比べ有意に増大し、AVS+ISO群ではAVS群に比べ約25%減少した。AVS+ISO群の左室駆出率はSham群およびAVS群と同程度であった。AVS群の心房収縮期流入血流速波形(A波)はSham群に比べ増大傾向が認められ、AVS+ISO群ではより顕著で有意な増大が観察された。拡張能の指標である左室流入速波形(E波)とA波の比(E/A)はAVS群とSham群で同程度であったが、AVS+ISO群では有意な減少が見られた。Sham+ISO群の各指標はいずれもSham群と同程度の値であった。
【結語】AVSによる慢性容量負荷とisoproterenol負荷の組み合わせにより、4週間で左室拡張機能が低下することを見出した。左室駆出率が維持されていたことから、AVS+ISO群のラット心臓では左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)に類似した病態生理学的変化が生じていると考えられた。