循環器系疾患など生殖器関連疾患以外にも発症性差があり、薬物の作用・副作用に性差がみられることが臨床的に示され、薬物治療・創薬において性別が考慮すべき個人差として注目を浴びている。性ホルモンの違いに起因する動脈硬化進展やQT延長毒性の性差だけでなく、最近は、X染色体上遺伝子が関与するがんや膠原病の発症性差が報告されるなど、性差形成に関連する分子機構は複雑さを増し、メカニズムは理解されていない。そこで、我々は、臨床でみられる病態や薬物反応における性差の分子機構を解析することを目的とし、ヒトiPS細胞を用いたin vitro実験系を構築することを発案した。ヒトiPS細胞はドナーの背景・樹立方法・実験者等の違いにより、結果が大きくばらつくという課題を抱える。この問題を解決するために、遺伝的背景が近く同年齢の二卵性男女双生児からiPS細胞株を同時に樹立したので、本発表にて進捗を報告する。
【方法と結果】20代アジア人の二卵性男女双生児より以下の方法によりiPS細胞を樹立した。各被験者から採血し、A・Bと記号をふりランダム化した。血液から調整した活性化T細胞にセンダイウイルスベクターを用いて山中4因子(OCT3/4, SOX2, KLF4, c-MYC)を導入して、iPS候補細胞株(検体A:13株、検体B:19株)のクローンを作出した。iPS細胞株の多分化能については、NANOG, OCT3/4の発現量をRT-qPCRで検証した後、免疫染色で確認した。RT-qPCRによる質的検証により、NANOGおよびOCT3/4のいずれも陽性を示した株は検体Aより3株、検体Bより9株であった。さらに、三胚葉分化能をRT-qPCRにより株ごとに検証し、A3株、B3株を分化誘導の対象として選別した。なお、採血前の問診と臨床検査の結果、被験者はともに健常であり、男女共通の基準値である検査項目については類似の値を示し、心電図QTC間隔や赤血球数などでは性別ごとの基準値を反映する値を示した。
【今後の展開】選択した株を用いて、未分化状態および心筋分化誘導後での遺伝子発現における性差解析、分化心筋細胞の機能における性差解析を実施することにより、性染色体由来の性差を含む統合的な理解を目指す。