【目的】糖尿病は疾患初期段階では体調異常が発見されず世界中で患者数が多い原因になっている。体内時計機構はインスリン分泌に影響し、糖尿病を誘発する危険因子の一つに生体リズムの乱れがある。生体リズムの乱れを検出することで糖尿病の初期段階をとらえることが期待される。生体リズムの乱れを計測するには長期間の全身の遺伝子発現を定量するシステムが必要である。今回、生体リズムの乱れを高感度に検出し糖尿病の極めて初期段階を毛をもちいて簡易的にとらえることを試みた。【方法】時計遺伝子Per1luciferase(luc)を連結したPer1-lucマウスをもちいてPer1遺伝子発現リズムを計測し、生体リズムの乱れを可視化するシステムを独自に開発した。糖尿病モデルマウスを作製し、本システムを用いて糖尿病が重篤化する過程の体毛とひげのPer1遺伝子発現を計測した。【結果】糖尿病誘発薬であるSTZ投与により糖尿病モデルマウスを作製し、生体リズムの乱れから糖尿病発症および重篤化までのPer1遺伝子発現を自由行動マウスの大脳皮質、嗅球、肝臓、皮膚部位からリアルタイムに計測することに成功した。STZの投与により血中グルコース濃度が上昇し糖尿病を誘発する。血糖値の上昇にともないマウスの外見は変化し糖尿病の重篤化にともない背を丸める姿勢をとり毛並みも悪くなることが観察された。遺伝子発現リズムに関してはSTZ投与後、1日以内に急激なPer1遺伝子発現上昇が惹起された。その後、Per1遺伝子の高発現が継続し、発現リズムが消失した。Per1遺伝子の急激な一過的発現増加は、糖尿病を発症していない血糖値が高くない時期に検出された。すなわち、急激なPer1発現上昇の後、行動リズムの消失および血糖値の上昇が誘発され、糖尿病を誘発したと考えられる。さらにPer1遺伝子発現の異常な増加をより簡易的に毛1本から検出することに成功した。体毛では糖尿病発症前に、ひげでは発症後にPer1遺伝子発現上昇を検出できた。【考察】血糖グルコースが上昇し、糖尿病になるまでの過程をリアルタイムに解析したことで、糖尿病の極めて初期段階を毛でとらえることができたと考えている。