低ホスファターゼ症(HPP)は、組織非特異的アルカリホスファターゼ遺伝子の変異により、呼吸困難、痙攣発作、成長障害、硬組織の石灰化不全、乳歯の早期脱落を主徴とする遺伝性疾患である。HPPの診断は、胎児エコーでの長管骨の低形成や彎曲、もしくは乳歯の早期脱落を認めて初めてHPPが疑われ、種々の検査を経て確定診断に至る。そのため、4歳以上の小児型HPPや成人型HPPはHPPであるにも関わらず、HPPとの診断がつかずに骨粗鬆症と診断されることがある。その結果、骨粗鬆症の治療薬として幅広く使用されているビスホスホネート(BP)製剤の投薬が行われる可能性があり、HPPにBP製剤の投薬を行った結果、非定型大腿骨骨折を生じた事例もある。そこで本研究では、軽症HPPモデルマウスであるAkp2+/-を対象に、BP製剤投与が大腿骨に与える影響の解析を目的とした。
4週齢(小児型HPPを想定)と13週齢(成人型HPPを想定)のAkp2+/-マウスに、ゾレドロン酸(Zol)を1 mg/kg(vol:200 µL)隔週、計5回の皮下投与を行った。その1週間後に大腿骨のサンプリングを行い、マイクロCT解析および組織学的解析としてHE染色を行った。コントロールとして、同日齢のAkp2+/+マウスを用いた(DNA組み換え実験承認番号:DNA2101、動物実験承認番号:210706)。
Akp2+/-マウスは同日齢のAkp2+/+マウスと比較して、石灰化が遅い傾向にあった。Zolを投与すると、大腿骨の骨形成がその時点で停止し、成長板軟骨および大腿骨頭に変性軟骨の異常増殖が確認された。
今回の結果から、①軽症HPP患者は同年齢の健常者と比較して、石灰化が遅れる傾向にあり、骨の成長が停止する時期がズレること、②BP製剤を投与してしまうと変性軟骨が異常増殖を起こし、その結果、大腿骨頭壊死などを起こすリスクが高くなる可能性があることがわかった。したがって、軽症HPP患者と通常の骨粗鬆症患者との鑑別診断が重要であり、HPP患者に対し、BP製剤の投与を避けるべきという日本小児内分泌学会のHPP診療ガイドラインは概ね妥当であることがわかった。