【目的】ブロナンセリンとオランザピンは、ピペラジン骨格を共通構造として有する非定型抗精神病薬である。急速活性型遅延整流カリウム電流(IKr)に対するIC50は、モルモット単離心筋細胞を用いたin vitroでの検討でそれぞれ0.2および0.3 µMであり、 QT間隔延長の有害事象が複数報告されている。非定型抗精神病薬は動物種によりin vivoで心拍数増加作用を示す事例が報告されているため、本研究は反射性頻脈が生じにくいイソフルラン麻酔モルモットを用いて、ブロナンセリンとオランザピンの心室再分極相に与える影響を検討した。比較薬として、両薬物と同様にピペラジン骨格を有し、IKrに対するIC50が同程度であり、イソフルラン麻酔モルモットで心室再分極相遅延作用が報告されているヒドロキシジンを用いた。
【方法】Hartley系モルモットをイソフルランで麻酔し、体表面心電図および頸動脈圧を継続的に測定した。右外頸静脈から右心室に単相性活動電位(MAP)記録/電気刺激兼用電極カテーテルを挿入し、右心室のMAP波形を洞調律および電気刺激下(300と250 ms)で記録した。ブロナンセリン、オランザピンの3用量(0.01、0.1および1.0 mg/kg)、ヒドロキシジンの2用量(0.1、1.0 mg/kg)をそれぞれ10分間かけて静脈内に持続投与し、QT間隔ならびに90%MAP持続時間(MAP90)の変化を経時的に観察した。
【結果】ブロナンセリン、オランザピン、ヒドロキシジンは、いずれも1.0 mg/kgでQT間隔と洞調律下および電気刺激下(300 ms)のMAP90を延長させた。洞調律下のMAP90の最大変化量は、3薬物でそれぞれ+14.1 ms、+10.4 ms、+17.5 msでほぼ同等であった。
【考察・結論】イソフルラン麻酔モルモットで、1.0 mg/kgのブロナンセリンとオランザピンは、ヒドロキシジンと同程度の再分極相遅延作用を有することが示された。ただし、ブロナンセリンとオランザピンの薬効相当量は0.1 mg/kgであり、ヒドロキシジンの薬効相当量の10分の1であることを考慮すると、ブロナンセリンとオランザピンはヒドロキシジンに比べ、常用量での使用では心室再分極遅延作用が出現する可能性は低いと考えられる。