【目的】イバブラジンは過分極活性化環状ヌクレオチド依存性チャネルの抑制により心拍数低下作用を有する慢性心不全治療薬であり、本薬による治療中にQT間隔延長や多型性心室頻拍の発生が報告されている薬物である。この有害事象にイバブラジン自身による徐脈作用が関連する可能性が考えられるが、この関連性の詳細を検討した報告は知られていない。本研究ではイバブラジンの心臓電気薬理学的作用を、hERG K+チャネルに対する作用強度がイバブラジンと同等であり徐脈作用がない抗ヒスタミン薬ジフェンヒドラミンおよびhERG K+チャネル抑制作用がなくイバブラジンと同様に徐脈作用を有するβ遮断薬ランジオロールを用いて比較検討した。
【方法】Hartley系モルモットをイソフルランで麻酔し、体表面心電図および動脈圧を測定した。右外頸静脈から右心室に単相性活動電位(MAP)記録/電気刺激兼用電極カテーテルを挿入し、右心室のMAP波形を洞調律および電気的刺激によるペーシング下(300と250 ms)で記録した。イバブラジンおよびジフェンヒドラミンの評価では3用量(0.01、0.1および1 mg/kg)をそれぞれ10分間かけて静脈内投与した。ランジオロールの評価では3用量(0.03、0.3および3 mg/kg/min)を静脈内持続投与した。心電図指標ならびに90%MAP回復時間(MAP90)の変化を経時的に観察した。
【結果】イバブラジンは0.1 mg/kgから、ジフェンヒドラミンは1 mg/kgで有意な心拍数低下、QT間隔延長および洞調律ならびにペーシング下でのMAP90の延長を認めた。イバブラジンとジフェンヒドラミンによるMAP90延長の程度を0.1 mg/kg同士で比較すると、洞調律下ではイバブラジンの効果が大きかったが、ペーシング下では両薬物の作用は同程度であった。一方、イバブラジン 0.1 mg/kg投与時と同程度の心拍数低下を示すランジオロールの3 mg/kg/minは洞調律下でMAP90を延長させ、その程度はイバブラジンとジフェンヒドラミンが示すMAP90延長作用の差分に相当した。
【結論】イバブラジンの心室再分極遅延作用は主作用である徐脈作用により増強されるという関係性にあり、0.1 mg/kgで観察されたその効果は相加的であることが薬理学的に示された。