【背景・目的】ヒドロキシクロロキンはマラリア感染症や全身性エリテマトーデス等の膠原病に対する治療薬であり、最近ではヒドロキシクロロキンによるCOVID-19治療中にブルガダ症候群が顕在化したとの報告がなされている。ヒドロキシクロロキンと同様にキノリン誘導体であるIa群抗不整脈薬キニジンとヒドロキシクロロキンの心臓電気生理学的作用の相違点を明らかにすることを目的に、イソフルラン麻酔モルモットの心臓内伝導および心筋再分極に対する作用を比較検討した。
【方法】Hartley系モルモットをイソフルランで麻酔し、体表面心電図および頸動脈圧を測定した。右外頸静脈から右心室に単相性活動電位(MAP)記録/電気刺激兼用電極カテーテルを挿入し、右心室のMAP波形を洞調律および電気刺激下(刺激長300と250 ms)で記録した。ヒドロキシクロロキンまたはキニジン(1、5および10 mg/kg)をそれぞれ10分間かけて静脈内に持続投与し、心電図指標ならびにMAP持続時間(MAP90)の変化を経時的に観察した。
【結果】ヒドロキシクロロキンは、臨床用量相当の5 mg/kgから心拍数低下とQT間隔およびMAP90の延長作用を示した。また、ヒドロキシクロロキンはその2倍である10 mg/kgの投与により、QRS幅、PQ間隔を延長させた。一方、キニジンは、1 mg/kgから洞調律のMAP90を延長させ、5 mg/kgから心拍数低下およびPQ間隔延長ならびにQT間隔とMAP90の延長を示し、10 mg/kgでQRS幅を延長させた。
【考察・結論】ヒドロキシクロロキンはキニジンと同様に心臓内伝導抑制作用および心筋再分極遅延作用を有することが示された。ヒドロキシクロロキンの心筋再分極遅延作用は心臓内伝導抑制作用に比べて低用量から出現し、その延長作用はキニジンに比べて弱かった。一方、心臓内伝導抑制作用はヒドロキシクロロキンとキニジンでは同程度の強度で出現することから、ヒドロキシクロロキンの臨床用量付近で出現するNa+チャネル抑制作用やCa2+チャネル抑制作用がブルガダ症候群の誘発に関与する可能性が考えられた。