(目的)幼若心筋は成熟心筋と比較してエネルギー産生を大きく解糖系に依存している。解糖系は、嫌気的条件下でATPを産生するだけでなく、好気的条件下においても酸化的リン酸化によりATPを産生したり、副側経路を介して中間代謝産物を様々な生合成経路に提供することで、細胞の成長や生存に重要な役割を果たしている。Yes-associated protein 1(YAP)は、細胞の増殖、生存、エネルギー代謝等を制御する転写共役因子である。幼若心筋細胞は成熟心筋細胞に比べYAPの発現が多いことが知られているが、幼若心筋細胞の解糖系におけるYAPの役割は十分に調べられていない。そこで、本研究では新生仔ラット心室筋細胞(NRVM)を用いて、YAPのノックダウンが幼若心筋細胞の解糖系に与える影響を検討した。
(方法)初代培養NRVMにControl shRNA(Ad-shControl)又はYap shRNA(Ad-shYap)発現アデノウィルスベクターを感染させ、無血清培地で5日間培養した後、各解析を行った。解糖系は細胞外酸性加速度を測定し、評価した。解糖系関連遺伝子のmRNA量とタンパク質量は、それぞれ定量PCR法とWestern Blot法で測定した。
(結果)NRVMにおけるYAPのノックダウンは、基礎解糖能、解糖能、解糖予備能をいずれも有意に減少した。YAPのノックダウンが解糖系及び解糖系副側経路の遺伝子発現に与える影響を検討した結果、解糖系遺伝子のmRNA量では、Glut4、Hk2、Pfk1、Pkm1が有意に増加し、Pgk1、Pgam1、Eno1、Pkm2が有意に低下した。解糖系遺伝子のタンパク質量では、Pfk1のみが有意に増加し、Pgk1、Pgam1、Eno1が有意に低下していた。解糖系副側経路遺伝子のmRNA量では、グリセロリン脂質合成経路の責任酵素であるGpdのみが有意に増加したが、タンパク質量では差があるものは認められなかった。
(結論)本研究より、NRVMにおけるYAPのノックダウンは、解糖系の主要酵素であるPgk1、Pgam1、Eno1の発現を抑制し、解糖系代謝を低下させることが示唆された。このことから、幼若心筋細胞においてYAPはPgk1、Pgam1、Eno1の発現を調節し解糖系を維持しているものと考えられる。